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新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
特集 2010年1月

新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題

2010年1月
更新日 2021年7月6日

新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。

当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。

不動産関係

A.賃貸借に関する権利義務関係は、原則として当事者間で締結されている賃貸借契約により決定されることとなります。よって、まずは、締結済みの賃貸借契約を十分に検討し、関連する規定がないかを確認する必要があり、締結済みの賃貸借契約にこれに関する規定がある場合には、原則として賃貸借契約の定めに従うことになります。
これに対し、賃貸借契約で関連する規定が定められていないケースでは、休業の原因によって原則的な取扱いが分かれることになります。

休業が全くの賃借人の判断により行われている場合には、賃貸人に対して賃料の支払い免除を求める法的な根拠がなく、賃貸人として賃料の支払い免除に応じる必要はありません(なお、全くの賃借人の判断で休業する場合には、賃貸人の承諾を得ない休業が賃貸借契約で禁じられていることも多いことから、賃貸借契約の定めに違反しないかを確認するべきといえます。)。

また、休業が全くの賃貸人の判断で行われ、賃貸人が賃借人に休業することを強制したようなケースでは、賃貸人は賃借人に対して不動産を使用・収益させる義務(以下「貸す債務」といいます。)を負担しているので、この貸す債務を賃貸人が意図的に不履行したものとして損害賠償債務を負担することとなります(この場合、損害賠償債務と賃料債務を相殺することで、実質的な賃料の免除を得られることになります。)。

もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響による休業の場合、賃貸人及び賃借人のいずれの判断とも言い難い場合や、賃貸人及び賃借人が双方ともにやむなく休業せざるを得ない場合、賃貸人及び賃借人の協議の結果感染症の拡大防止のために休業することを合意して休業する場合等、賃貸人及び賃借人のいずれか一方のみに休業の原因があるといえないケースも多く生じています。

そのような賃貸人及び賃借人のいずれの原因でもない、いわゆる「不可抗力」により休業を余儀なくされ、貸す債務を履行することができなかった(履行が不能であった)場合(以下「不可抗力による履行不能の場合」といいます。)には、賃借人は貸す債務が履行されない範囲で賃料の支払債務を免れることができます(民法536条1項)
どのようなケースが不可抗力による履行不能の場合に該当するかは、社会通念に従い個別具体的に判断されるため、必ずしも明らかではありません。

例えば、新型コロナウイルスに関連して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」といいます。)に基づく建物の立入等の禁止や交通の制限・遮断により建物の使用禁止処分等が実施された場合には、法律上その建物の使用が禁止されますので、その建物の賃貸借については、不可抗力による履行不能になるものと考えられます。この場合には、建物の立入等の禁止がされ、貸室を使用できず、休業を余儀なくされた日数に応じて日割計算する等の方法により、賃貸人の貸す債務が履行されなかった割合を算出し、それに基づいて算出された割合に対応した範囲で、賃借人は賃料支払債務を免れることになると考えられます(なお、現時点ではあまり想定されませんが、建物の立入等の禁止が長期化するような場合には、そのことが賃貸借契約の終了事由や解除事由となる可能性もあります。)。

また、上記の感染症法の使用禁止処分等のように強い処分ではありませんが、令和2年4月11日(同月16日変更)に内閣官房新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針によると、同月7日に発出された緊急事態宣言に伴い、緊急事態宣言の指定区域(現状は全都道府県)では、事業者に対して、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」といいます。)に基づく行動計画を実施するために必要な協力の要請(特措法24条9項)及び施設の使用の制限又は停止その他の措置の要請・指示(特措法45条2項・3項)をとることができるとされています。具体的には、「第1段階として法第24条第9項による協力の要請を行うこととし、それに正当な理由がないにもかかわらず応じない場合に、第2段階として法第45条第2項に基づく要請、次いで同条第3項に基づく指示を行い、これらの要請及び指示の公表を行うものとする。」という段階的な要請・指示を行うものとされています。

このうち、行動計画を実施するために必要な協力の要請(特措法24条9項)は、予め定めておいた新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画に関するものであり、法的義務を課すものではなく、任意の協力を求めるものにすぎません。実際、令和2年4月7日の緊急事態宣言以降、同宣言の指定区域となった都府県において一定の遊興施設、大学・学習塾等、運動・遊戯施設、劇場等、集会・展示施設、商業施設に対して施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(=休業要請)がなされていますが、これらは、法律上の位置付けとしては「任意の協力要請」です(令和2年4月10日 新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等)

次に、施設の使用の制限又は停止その他の措置の要請・指示(特措法45条2項・3項)については、緊急事態宣言がなされた場合に、施設管理者等に要請及び指示ができるというものです。要請に応じる法的義務はないと解されていますが、指示については法的義務を課すものと解されています(ただし、違反に罰則はありません。)。なお、これらの措置がとられた場合、公表されることになります(特措法45条4項)
これらの法律に基づく要請・指示等の措置がなされた場合、法律上の根拠のない要請とは異なり、法律上の義務や違反に対する罰則の有無にかかわらず、その時点の諸々の状況に鑑み、事実上の強制力を伴うと評価されるべきケースもありますから、そのようなケースでは、上記の感染症法に基づく使用禁止処分等と同様に考え、不可抗力による履行不能になるものと考えられます。

もっとも、前記のとおり、どのようなケースが不可抗力による履行不能の場合に該当するかは、社会通念に従い個別具体的に判断されるため、具体的なケースにおいて不可抗力による履行不能に該当するかどうかは、関係する不動産の利用目的、利用状況、その時点での近隣の情勢、さらには取引通念等によっても影響を受けますから、現時点でどのような場合に不可抗力による履行不能になるのかを一律に線引きすることは困難であり、多くのケースでは、休業の原因や周辺事情等を踏まえ、賃貸人と賃借人の間で休業の原因等について協議し、賃借人が賃料の支払い義務を免れるのかどうかを決定していくことが必要になるものと思われます。

なお、法律上賃貸人として賃料の支払免除に応じる必要があるかどうかとは別に、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点からの外出自粛要請や一部事業者に対する営業自粛要請等の影響により、一時的に資金的な困難を生じている事業者も多くある数見られる中で、このような事業者に対し、賃料の一部免除等の柔軟な措置を講ずることが、賃借人である事業者の破綻等を避けることにつながり、結果として、賃貸人及び賃借人の双方にとって中長期的な観点からメリットがある場合もあると考えられます。各不動産についての権利義務関係、権利義務を取り巻く関係者の事情は様々であり、それを具体化したものがまずは契約であることもあり、当事者には、それぞれの契約を踏まえつつ、契約のもととなっている具体的な事情の違い等にも配慮し、誠実な交渉等を行うことが求められていると考えられます。

A.Q1と同様、まずは締結済みの賃貸借契約にこれに関する規定がある場合には、原則として賃貸借契約の定めに従うことになります。

これに対し、賃貸借契約で関連する規定が定められていないケースでは、本年4月1日に施行された改正後の民法(以下「改正後民法」といいます。)が適用される賃貸借契約か、当該改正前の民法(以下「改正前民法」といいます。)が適用される賃貸借契約かで取扱いが異なると考えられます。

具体的には、改正後民法が適用される賃貸借契約については、改正後民法611条1項により、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、当然に減額される旨が定められています。したがって、改正後民法が適用される賃貸借契約について、賃貸借の目的物が「使用及び収益することができなくなった」(以下「使用不能」といいます。)といえ、かつ、そのことについて「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」である場合には、賃料の減額が認められることになります。休業が全くの賃借人の判断により行われている場合には、「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」とはいえませんので、賃料の減額は認められないと考えられますが、休業が使用不能によるものであり、かつ、その使用不能が賃借人によるものではないといえる場合には、改正後民法611条1項により賃料の減額が認められることになります。もっとも、どのような状況が使用不能に該当するかについては、Q1に記載の不可抗力による履行不能の場合と同様、一律に線引きすることは困難であり、個別具体的なケースごとに検討することが必要になると考えられますし、そもそも、改正が施行された本年4月1日からの経過期間が比較的短いことから、改正後民法が適用される賃貸借契約の数は現時点ではまだ限定的であると思われます。

これに対し、改正前民法が適用される賃貸借契約については、改正前民法611条1項は、賃借物の一部滅失の場合にのみ賃料減額を請求できる旨が定められています。したがって、改正後民法が適用される賃貸借契約とは異なり、当然に賃料減額が認められることにはならないと考えられます(もっとも、Q1に記載のとおり、不可抗力による履行不能の場合には、賃借人は貸す債務が履行されない範囲で賃料の支払債務を免れることになりますので、実質的に見て賃料の減額と同じような効果が生じることはあり得ることになります。)。

また、上記の民法の規定以外にも、借地借家法32条1項は、賃借人に対し、一定の場合に賃料の減額を請求できる権利(以下「賃料減額請求権」といいます。)を定めているため、この賃料減額請求権を行使して減額を求めることも考えられます(なお、賃貸借契約が、定期建物賃貸借契約である場合には、賃料減額請求権が排除されている場合がありますので、締結済の賃貸借契約を特に確認することが必要となります。)。

賃料減額請求権による賃料減額が認められるには、現状の賃料が「不相当」であると判断されることが必要となり、その際には、例えば、以下のような要素が判断材料になるといわれています。

  • ・土地若しくは建物に対する租税その他の負担の減少
  • ・土地若しくは建物の価格の低下
  • ・その他の経済事情の変動
  • ・近傍同種の建物の借賃
  • ・現行の借賃が定められてからの相当期間の経過
  • ・当事者間の主観的個人的な事情の変化
  • ・賃貸借契約締結当時の当事者間の特殊事情の解消

もっとも、この賃料減額請求権は、一時的な事象というよりは、ある程度の長期的なインパクトを持つ事情による賃料の相場の変動に対応するためのものであり、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に起因する事象は、直ちに賃料の相場に影響するものとは言い難いことから、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされたとしても、そのことで直ちに賃料が「不相当」と判断される可能性は低く、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う休業等を理由とした減額請求は現時点では認められがたいと考えられます。

ただし、新型コロナウイルス問題が長期化し、日本経済全体が沈下する等の影響が生じた場合には、日本の不動産市場における賃料相場もそれに伴い低下すると考えられますので、そうなった場合、現状の賃料が「不相当」と判断されることはあり得ると考えられます。

また、小売り・飲食等を中心に売上げが激減しているテナントもあり、商業施設等では売上げを基に賃料が決まっている面もありますので、商業施設等の賃料相場が下がる可能性もありますので、今後の動向如何によっては、賃料減額請求の余地はあり得るものと思われます。

なお、賃料減額請求権が行使された場合、減額されるのは将来の賃料であり、過去に遡って減額を請求できるものではない点に注意が必要です。

さらに、民法の一般的な解釈として、事情変更の原則・信義則の適用により、著しい経済事情の変動があった場合に、賃料の減額請求が認められる場合もあります。裁判例では、「経済情勢の大幅な変動等による貨幣価値の大幅な変動等定期建物賃貸借契約締結時において、契約当事者間において想定しえない事態が生じた場合であって、賃料を増減額することが契約当事者間の衡平に資する等特段の事情がある場合には、定期建物賃貸借契約であっても賃料の増減額を請求することができると解するのが相当である。」といった規範を示しているもの等があります。もっとも、この規範に該当する事例としては急なインフレ等が想定されていると思われ、実際に同裁判例では、東日本大震災による賃料相場の変動は上記の規範に該当しないと判断されていますので、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされたとしても、そのことで直ちに事情変更の原則・信義則の適用により賃料の減額が認められる可能性は低いものと思われます。

A.Q1と同様、まずは締結済みの賃貸借契約にこれに関する規定がある場合には、原則として賃貸借契約の定めに従うことになりますが、賃貸借契約に特段の規定がない場合には、賃借人が支払猶予を求める権利は当然には認められず、賃料の支払猶予が認められるには、賃貸人と賃借人との間でその旨の合意が成立することが必要となります(Q1に記載の賃料の減額等が認められる場合には、賃料の支払猶予が必要となるケースは限定的と思われますので、減額等が認められないケースで特に賃料の支払猶予が必要となるケースが多いものと考えられます。)。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響による売上減少は、一過性のものである可能性も相応にありますから、当該売上減少の影響が去った後に賃借人から賃料の支払を受けることができ、最終的に損失が生じないこととなるのであれば、賃貸人としては、賃料の一時的な支払猶予を許容してでも、現状の賃借人との賃貸借契約を継続することが中長期的に見て利益になる場合もあると考えられます。

また、国土交通省は、令和2年3月31日付で、不動産関連団体を通じて、賃貸用ビルの所有者など飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対し、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、飲食店等のテナントの賃料の支払いについて、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討するよう要請しており、該当する賃貸人には、この要請も考慮した対応が求められていることも考慮する必要があります。

そのため、新型コロナウイルス感染症の影響により当然に賃料の支払猶予が認められるものではないとしても、賃貸人に対して協議を申し入れ、新型コロナウイルス感染症の影響が収束した後に賃料の全部又は一部の支払期日を延期することについて協議することは、賃借人にとって有益と思われます。なお、その際には、賃料の支払いを特定の期日に一括とするのではなく、賃貸借契約の残存期間の月数等に応じて分割払いとする旨を合意し、新型コロナウイルス感染症の影響が収束した後の資金繰りが過度に厳しいものとならないように考慮した条件を合意することが、賃借人としては重要となると考えられます。

Q1.〜Q3.担当 石橋源也弁護士大山豪気弁護士
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税務

A.事業者が個人か法人のいずれであるかにより、それぞれ以下のとおり整理されますが、国税・地方税ともに、申告期限の延長・納付の猶予等が柔軟に認められる状況にありますので、所轄税務署や地方公共団体の窓口にお問い合わせ下さい。

  • (1)個人事業者の場合(国税)
    個人事業者における所得税(所得税及び復興特別所得税。以下同様。)及び消費税(消費税及び地方消費税。以下同様。)の本来の申告期限は2020年3月16 日でしたが、新型コロナウイルス感染症及び緊急事態宣言の影響により同年4月16日まで期限が延長されていました。
    国税当局は、2020年4月17日以降の申告・納税についても柔軟に期限延長等を認める姿勢を示していますので、申告・納税を直ちに行えない事情がある場合は、事前予約の上、所轄税務署に相談するのが相当と考えられます。
    なお、納税の猶予については、本来、担保提供の上、延滞税を支払う必要がありますが、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」として、令和2年2月以降任意の期間(1か月以上)において、事業等に関する収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少しているなどの要件を満たす場合には、納税猶予における担保提供及び延滞税の支払いを不要とする方向での税制改正が予定されています。
  • (2)法人事業者の場合(国税)
    法人事業者における法人税(法人税及び地方法人税。以下同様。)及び消費税の申告については、本来的には事業年度末から2か月以内に、株主総会において決算を確定したうえで税務申告を行う必要がありますが、新型コロナウイルス感染症及び緊急事態宣言の影響により株主総会を開催できないなどの事情がある場合には、申告期限の延期が認められます。
    ただし、単に株主総会を開催できないことを理由とする期限延長については、法人税においてしか認められていないこと(法人税法第75条、地方法人税法第19条第5項等)、当該理由による期限延長については利子税が発生すること、及び、少なくとも法令上は、事業年度末から45日以内の延長申請が求められていることに注意が必要です。
  • (3)地方税(事業税・住民税等)の取扱い
    総務省からの指導により、地方税における申告期限や納税猶予についても、国税と概ね同様の対応になりますが、最終的な判断等は、課税を行う地方公共団体においてなされますので、詳細については本社・事業所等が所在する地方公共団体のホームページをご覧いただくか、担当部署に個別にお問い合わせいただくのがよいと考えられます。
    ご参考まで、以下では東京都主税局における取扱いが記載された URL を表示します。

ご参考
<国税庁>
*4月17日(金)以降の申告・納付の対応について(個人)
*法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ(法人)
*新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ
*国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ

<財務省>
*新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置

<総務省>
*新型コロナウイルス感染症の影響に伴う地方税における対応について

<東京都主税局>
*【法人事業税・法人都民税】新型コロナウイルス感染症の影響により期限までに申告等をすることが困難な場合の手続について
*【事業所税(23区内)】新型コロナウイルス感染症の影響により期限までに申告・納付等をすることが困難な場合の手続について

A.法人税法においては、新事業年度開始から3か月経過した時点以降の事業年度途中に毎月の定額の役員報酬を減額した場合には、減額部分につき損金不算入となり、支払済みの月額役員報酬のうち減額後の月額役員報酬額との差額に相当する部分が課税対象になってしまうのが原則です。

ただし、例外的に、「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情」(業績悪化改定事由)がある場合には変更後も役員報酬の損金算入が認められます。

ここでの業績悪化改定事由には、現状では売上などの数値的指標が悪化しているとまでは言えないものの、役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避であるような場合も含まれるものと解されています。また、当該事由の判断については、経営状況の悪化の程度が著しいものとは直ちに判断できない場合でも、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じている場合(例えば、金融機関とのリスケージュール交渉の前提として必要性がある場合)も含まれるものと考えられています。

したがって、このケースにおいても、税務リスク検証の観点からは

  • ①企業において、新型コロナウイルス感染症及び緊急事態宣言の影響を踏まえ、役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に企業の財務状況が悪化する可能性が高い状況であるのか
  • ②株主、債権者、取引先との関係で役員報酬の減額が必要であるのか
といった事情をご検討いただいた上で、役員報酬の減額の是非を決定していただくことになります。

なお、特に①を理由に役員報酬を減額される場合には、事後の税務調査等に備え、企業経営上の数値的指標の著しい悪化が不可避と判断される客観的な状況としてどのような事情があったのか、経営改善策を講じなかった場合のこれらの指標を改善するために具体的にどのような計画を策定したのか、といったことを説明できるようにしておくことが重要です。

ご参考
<国税庁>
*国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ(5 - 問6,問7参照)
*役員給与に関するQ&A(平成24年4月改訂)(Q1,Q1-2参照)

A.まず、支払いを受ける従業員側では、①は給与所得として所得税の課税の対象になりますが、②については非課税となります。

次に、企業側については、法人税との関係では①及び②はいずれも損金(費用)として取り扱われる一方、源泉所得税との関係では、給与所得に該当する①のみが源泉徴収の対象となります。

休業等に関する給与支払義務等に関する整理については、人事・労務Q3「感染拡大と休業」を併せてご参照ください

ご参考
<国税庁>
*タックスアンサー NO.1905-労働基準法の休業手当等の課税関係

A. 国内企業が、国内外の取引先等に対して合意済の販売価格の引き下げを行った場合、その減額したことに合理的な理由がなければ、差額については、原則として、相手方に対して寄附金又は交際費を支出したものとして税務上取り扱われることになり、一定の限度額を超える部分について課税されるリスクが発生します。

しかしながら、国内企業の行った引き下げが、例えば、次の条件を満たすものであれば、合理的な理由があるものとして、寄附金等の支出とは評価されないものと考えられます。

  • ① 取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること
  • ② 販売価額の引き下げが、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること
  • ③ 販売価額の引き下げが、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間)内に行われたものであること

一方、国内企業が海外子会社との既存の販売価格を引き下げた場合には、一般には国内企業側での移転価格税制の問題となります。また、海外子会社側においても既存の販売価格の引下げに起因して所得が増加する結果、所得課税を受けることになるほか、別途、輸入価格の相当性を巡る関税の問題が発生する可能性があります。こうした課税の問題に対処できるよう、企業・海外子会社において、販売価格引下げの理由及びその合理性等について、客観的資料をもって説明できるように準備しておくことが重要と思われます。

ご参考
<国税庁>
*国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ(「5」の問4参照)
*法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)

Q1.~Q4.担当 嘉納英樹弁護士下尾裕弁護士
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