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新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
特集 2010年1月

新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題

2010年1月
更新日 2021年7月6日

新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。

当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。

企業危機管理

A.従業員の感染が確認された場合、安全配慮義務(労働契約法5条)の観点からは、所轄保健所と連携の上、感染者及び濃厚接触者の特定、在宅勤務指示と健康観察、就業エリア・共用部の消毒、社内における状況の告知、さらには一定期間の事業所の閉鎖などの措置をとる必要があります。
なお、従業員の休業や勤務時間・勤務形態等の変更に伴う問題について、詳細は「人事・労務Q&A」のQ2~Q5をご参照ください。

さらに、企業としては、対外的に感染を公表するかどうかが問題となります。対外公表については、法令上義務づけられているものではありませんが、2020年2月以降の各社の対応状況を見ると、対外的な公表事例が増えてきているのが現状です。

具体的には、感染確認後速やかに、

  • ①感染確認日
  • ②感染者が確認されたビルの名称・所在地
  • ③感染者の属性(正社員か派遣社員か、グループ会社社員か等)
  • ④感染経緯(イベント参加等)
  • ⑤感染者数
  • ⑥顧客と接する業務に従事していたか否か
  • ⑦感染後の感染者の状況
  • ⑧感染確認後の企業の対応状況
等を公表し、適宜更新している例が見られます。

感染者のプライバシー・個人情報や企業に対する風評被害に配慮しつつも、社内外における感染拡大防止に向けた適時・適切な情報発信を行うことが、結局は企業としての信頼の維持につながると考えられます。

A.かつての重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行(2002年~2003年)や、東日本大震災(2011年)等を受けて、事業継続計画(Business Continuity Plan=企業が自然災害やテロあるいは重大感染症等の緊急事態に直面した際に中核事業の継続・早期復旧を可能にするための手順、以下「BCP」といいます。)を策定している企業が多く見られます。

今回のケースにおけるBCP発動の前提として、新型コロナウイルス感染症を含む感染症リスクの特性を把握する必要がありますが、感染症の場合、地震や火災といった自然災害と異なり、企業の施設や通信手段・各種インフラといった物的資源が直接ダメージを被ることはない一方で、人的資源(従業員・取引先・顧客)に損失が発生する点が大きな特徴となります。

具体的には、①感染被害及び感染拡大防止措置に伴って従業員の労働力が奪われ、また、②国内外での感染の拡大に伴い、サプライチェーンの断絶による事業活動に影響するといった事態も発生しています。
さらには、③旅館業や飲食店などの接客業では、仮に従業員や顧客に感染がなくとも顧客離れによる経営難に直面している例もあります。

  • ①の問題については、万が一自社での感染が確認された場合、BCPに沿って対策本部を設置し、Q1で説明した感染拡大防止のための初動対応をとることがまずは重要となります。
    加えて、感染の有無にかかわらず、人的資源の継続活用を可能とするテレワークや、テレワークを可能とするITシステムの構築・活用を実施し、その旨ホームページ上で公表している企業も多く、テレワークの活用によって、現時点(2020年4月13日時点)では日本国内の中核事業に特段大きな影響が生じていないという企業も散見されるところです。
    (人事マネジメントの観点からのBCPについては、「人事・労務Q&A」のQ1もあわせてご参照ください。)

  • ②については、欧米を中心とする新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、これに伴う各国政府レベルでの非常事態宣言に伴い、海外における工場の閉鎖や一時操業停止が報じられているところであり、例えばグローバル展開を行う日本の製造メーカーであれば、中核事業を守るべく、BCPに沿って、サプライチェーンの上流から下流まで滞りなく材料・部品の供給がなされることを確保し、また、事業のボトルネックとなるサプライチェーンの代替先の検討を行う必要があります。
    また、日本国内の感染状況も先行き不透明であるため、国内のサプライチェーンについても、万が一の操業停止などに備えた対応が必要です。

  • ③について、顧客離れが深刻で経営難に陥るおそれがある場合は、BCPにしたがい、今後の財務予測を立て、財務対策として当面の運転資金を確保し(政府系金融機関等による緊急融資制度や信用保証制度の活用も検討)、仕入先や給与の支払いに努めるとともに、経営の立て直し策の検討(商工会議所や商工会などの特別相談窓口の利用も検討)を行う必要があります。
    (上記②のサプライチェーン毀損対応や、③の企業に対する資金繰りや経営環境の整備支援については、経済産業省作成のパンフレット「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」が参考になります。
    その他、同省による各支援策につきましては、同省HP「新型コロナウイルス感染症関連」をご確認ください。

日本では2020年4月7日に7都府県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県)を対象に改正新型インフルエンザ対策特別措置法上の緊急事態宣言が発令されました(実施期間は同年5月6日まで)。緊急事態宣言に伴う外出自粛要請や施設使用制限要請等は強制力を伴うものではないものの、先行きが不透明な状況が続いていますので、①に加え 、上記②・③その他中核事業が毀損する事態があり得ることを想定した上で、自社のBCPの診断、維持・更新を行うことが引き続き必要と思われます。
(上記①については、従業員の罹患だけでなく、代表者やマネジメントが罹患した場合の指揮命令系統の立て直しについても予め検討しておくことが考えられます。)

Q1.,Q2.担当 西谷敦弁護士
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事業再生

A.金融機関に対して、元金の弁済期の猶予(リスケジュール)を求める申入れを行い、合意が得られるよう協議することが適切です。元金のリスケジュールの合意を得るためには、通例、利息の支払は継続する必要があります。

今般の新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受けて、金融庁は、本年3月6日、官民の金融機関に対して、「既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること。また、この取組状況を報告すること」を求めており(*参照|財務省)、各金融機関においては、これを踏まえた対応をすることが期待されています。

また、安倍晋三内閣総理大臣は、本年3月28日に行われた記者会見において、「この後、政府対策本部を開催し、緊急経済対策の策定を指示いたします。リーマン・ショック以来の異例のことではありますが、来年度予算の補正予算を編成し、できるだけ早期に国会に提出いたします。国税・地方税の減免、金融措置も含め、あらゆる政策を総動員して、かつてない強大な政策パッケージを練り上げ、実行に移す考えです。」、「中小・小規模事業者の皆さんには、既に実質無利子・無担保、最大5年間元本返済据置きという大胆な資金繰り支援策を講じてきたところですが、この無利子融資を民間金融機関でも受けられるようにいたします。」との指針を示しました(*参照|首相官邸)。これらの施策により、事業者の資金繰りの早期の改善が図られることが望まれます。

一般に、金融機関との間での交渉にあたっては、次のポイントに留意する必要があります。

• 新型コロナウイルス感染症の終息時期は不透明ではあるものの、不採算事業の撤退・縮小や固定費の節減等を通じて、事業の継続の見通しについて十分な理解を求めることが必要です。
• 複数の金融機関に対してリスケジュールを要請する場合には、各金融機関の間に不公平が生じないよう対応に留意する必要があり、また、各金融機関に対して、経営状況についての十分な情報の開示が必要です。
• 金融機関との間で、公平性・公正性・透明性に十分に配慮し、預金相殺や担保実行などのリスクをできるだけ回避した形で債務の弁済に関する交渉を行うために、弁護士が代理人となって、金融機関に対して、一時的に債務弁済の猶予と債権回収行為(相殺・担保実行・倒産申立て等)の停止を求める旨の通知を行い、再建計画案を示して金融機関の説得を図ることが多く行われています。特に、金融機関に対して元金のみならず利息の支払も止める必要がある場合、さらに、金融機関との間で債権カットを申し入れる必要がある場合には、速やかに弁護士に相談するのが適切であり、当事務所でも多くの実績があります。
• 金融機関との協議は、手続の公平性・公正性・透明性、税務上の取扱い上の利点、金融機関における経済合理性などの観点から、弁護士が代理人となって、「事業再生ADR」手続または「中小企業再生支援協議会」手続などの公的な手続によって行うことが望ましいといえます。しかし、そのための時間や費用がままならない場合には、これらの公的な手続によらずに、弁護士が代理人となって各金融機関に協議の申入れをすることも多く行われています(いわゆる「純粋私的整理」)。
• こうした金融機関との話合いによる債務整理(私的整理)は、金融機関以外の債権者には極秘で進められます。これは、金融機関との私的整理においては、金融機関以外の債権者(特に、仕入債権者などの取引債権者)に対する支払が継続されることによって、事業が劣化・毀損することを最小限に食い止めることが想定されているからです。したがって、金融機関との私的整理は、通例、金融機関に対する債務以外の債務(買掛金、給料・退職金、公租公課など)については支払える見込みがあることが必要です(買掛金等の支払の目途が立たない場合には、後述する民事再生の申立てなどを検討する必要が生じ得ます)。
• 一般に、複数の金融機関との私的整理においては、すべての金融機関の同意が得られることが必要であり、多数決によるわけではありません。
• いま会社を清算してたたんでしまうよりも、事業を継続して再建を図る方が、金融機関にとっても、弁済額や弁済率の上で、結局は利益となること(経済合理性)について、金融機関に十分に説明し、理解を求めることが必要です。

A.資金繰りが苦しく、納期限までの公租公課の支払が厳しい場合には、税務署等と相談し、分割納付などの申入れを行い、了解を求めることが考えられます。

また、国税や厚生年金保険料等については、納付の猶予制度(*参照|国税庁)が設けられており、税務署や年金事務所(*参照|日本年金機構)と相談することが考えられます(この制度の条件を満たしていない場合にも、上述の分割納付などの申入れを行うことは別途考えられます。)。

前述したとおり、今般の新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受けて、国は、公租公課の取扱いを含めて、かつてない規模での施策を講ずることを公表していますので、その内容や動向を引き続き注視し、できるかぎり資金繰りの改善に役立てることが望まれます。

A.金融機関との話合いによる解決が、資金繰り上の時間的な制約・逼迫や、金融機関の不同意等により困難である場合には、裁判所における法的整理を視野に入れた検討が必要です。

裁判所における再建型の法的整理の代表例としては、「民事再生手続」があります。民事再生手続は、どのような法人でも利用することができます。すなわち、株式会社、有限会社、合同会社などの会社に限られず、医療法人、学校法人、一般社団法人など、あらゆる法人が利用することができます。

今般の新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴って、さまざまな業種の事業者において、苦境・窮境に陥ることが懸念されていますが、民事再生手続は、どのような業種においても利用することができます。

民事再生手続のポイントは、次の通りです。

• 弁護士が代理人となって、裁判所に申立てを行います。裁判所への予納金は、管轄裁判所や負債総額によって差がありますが、例えば東京地裁では、負債総額が10億円~50億円未満の場合、原則として600万円の納付が必要です。このほか、申立代理人弁護士などの専門家費用が必要です。
• 民事再生手続の申立てと同時に、申立日の前日までの原因に基づく債務(=旧債務)の弁済が原則として禁止され、いったん棚上げになります。この意味で、旧債務との関係では資金繰りは一時的に改善されます(ただし、旧債務との預金相殺などに留意する必要があります。)。他方、申立日以後の原因に基づく債務(=新債務)の弁済は免れません。場合によっては、支払サイトの短縮化、現金払い(代金引換、キャッシュ・オン・デリバリー)、保証金の支払などを条件としなければ取引を継続しないという業者も現れる可能性があります。この意味で、新債務との関係で、申立て以後の資金繰りが継続できるよう、申立代理人弁護士との間で、早い段階から十分な相談・検討が必要です。
• 民事再生手続では、原則として、現在の経営陣(役員)が、そのまま民事再生手続においても職務を遂行します。ただし、一定の重要な行為については、裁判所の許可事項、または裁判所から選任された弁護士である監督委員による同意事項とされていますので、裁判所や監督委員による監督を受けて職務を遂行することになります。経営陣に問題がある行為が発見された場合などにおいては、裁判所によって管財人が選任されることがあり、その場合には、以後、管財人が民事再生手続を遂行します。
• 民事再生手続では、「スポンサー」と呼ばれる支援者の選定(スポンサーへの事業譲渡、会社分割、新株発行など)または自主再建などによる再建プラン(再生計画案)を立てて、無担保一般債権者の多数決による同意と裁判所の認可を得ることが必要であり、認可確定後の再生計画に基づいて、債権者に対する弁済を行います。東京地裁の標準スケジュールでは、申立てから再生計画の認可まで5か月間が予定されています。事業の劣化が急速に進んでいる場合には、スポンサーに対して、再生計画の定めによらずに、スピーディに事業譲渡を行うこともできます。
• 前述した金融機関との私的整理においては、取引債権者(私的整理など)は手続の対象外なので平常通り100%支払われますが、民事再生手続では、原則として、取引債権者の債権はカットされ、再生計画により弁済されます。弁済率は、スポンサーからどの程度の支援が得られたか、スポンサーがいない場合には自主再建によりどれだけの収益が見込めるかなどの諸事情を総合的に検討して決せられ、無担保一般債権者には一律、同じ弁済率が適用されます。なお、例外的に、取引債権者に対して100%の弁済がされる場合もありますが、これは、そのための資金繰りの目途がつけられる場合で、一定の条件を満たした場合に限られます。
• 民事再生手続では、労働債権者や租税債権者は、優先的な債権者(一般優先債権)として保護されます。すなわち、労働債権や租税債権は再生計画でカットすることはできませんので、給与・退職金や、公租公課の支払の目途が立てられることが必要です。
• 民事再生手続では、担保権を有する債権者は、原則として担保権を実行することができます。したがって、重要な資産の上に担保権が設定されていて、担保権が実行されると事業の継続に困難が生ずるおそれがある場合には、担保権者との間で、民事再生手続の申立ての直後から至急協議し、早期に和解的な解決(別除権協定)を図ることが必要です。特に、売掛金や在庫など重要な流動財産に担保権が設定されている場合には、裁判所に担保権実行手続の中止命令の申立てを行い、中止されている期間内に、別除権協定を結ぶことも検討します。
• 裁判所における再建型の法的整理としては、民事再生手続のほかに、「会社更生手続」があります。
民事再生手続は、前述のとおり、
  • ①すべての法人が利用することができ
  • ②原則として現在の経営陣が手続を遂行することができ
  • ③原則として担保付債権者が担保権を実行すること
ができます。
これに対して、会社更生手続は、
  • ①株式会社と有限会社のみが利用することができ
  • ②裁判所により管財人が必ず選任され
    (違法な経営責任の問題がなく主要債権者も了解しているなどの場合には経営陣から管財人が選任される場合もあります)
  • ③担保付債権者による担保権の実行は厳しく制約されています。
申立ての要件は、支払不能のおそれ・債務超過のおそれなど、民事再生手続と会社更生手続でほぼ共通しており、いずれを選択するかは、これら①②③の要素を中心に、さまざまな事情を熟慮して検討することになります。当事務所では、いずれの手続についても多数の実績を有しております。
• 民事再生手続や会社更生手続は、事業の再建をめざす手続であるのに対して、当初から清算をめざす手続として、「破産手続」や「特別清算手続」があります。これらの手続は、最終的に必ず会社を清算しますが、例外的に、破産手続の中でスポンサーに事業譲渡を行うことにより、事業をスポンサーに引き継げる場合もあります。民事再生手続や会社更生手続において、計画案について多数決による債権者の賛成が得られなかったり、計画のとおり債務を弁済することができなくなるなど、途中で頓挫してしまった場合には、手続が廃止されて、破産手続が開始されます。したがって、民事再生手続や会社更生手続において、最も重要な点は資金繰りであり、通例、申立ての前から、再建に一定の目途がつくまでは、「日繰り表」(日次の資金繰り表)を丹念に精査しながら手続を進めます。

Q1.~Q3.担当 粟田口太郎弁護士
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個人情報・GDPR

A.GDPRでは本来、職場の従業員の個人データは手厚く保護されており、特定の従業員の個人データ、しかもセンシティブな罹患した病気に関する個人データを、雇用者側が他の従業員に伝えることは厳しく制約されるところです。しかし、新型コロナウイルス感染症に関しては、感染者が発生した事実すら伝えないでおけば、他の従業員の健康にも重大な影響が生じかねないことから、感染者の氏名は秘匿した上で、必要最小限の情報を、他の従業員に伝えることは、GDPRにおいても許容されると考えられています。

A.GDPRでは、個人データの取得は最小限にするべきという大原則があります。この原則は、新型コロナウイルス感染症の場面においても、変わらず適用されます。また、従業員は、雇用者側との関係で弱者として位置づけられていることから、その情報の取扱には慎重さが求められています。このため、従業員から新型コロナウイルス感染症に関連して、健康状態について質問し、情報を収集することは避けるべきとする加盟国も見られます。情報収集を許容している加盟国でも、情報収集を最小限に抑制することが求められます。英国のデータ保護当局であるICOでは、特定の国や地域を直近で訪問していないか、新型コロナウイルス感染症の感染の徴候がないか、についての情報収集は、最小限の枠内であると整理しています。

A.リモートワークにおいては、従業員が自宅のWi-Fiネットワークから、私物の端末(PCやタブレット、スマートフォン)を用いて業務する場面が想定されます。このような場面に関して、データ保護当局からは、私物の端末及び自宅のWi-Fiネットワークの利用自体を禁じるわけではないものの、会社のネットワークから会社支給の端末を用いて業務する場合と同種のセキュリティを備えるよう求められています。リモートワークの開始に際しては、慎重な検討が必要です。

A.新型コロナウイルス感染症のリスクへの当局の対応については、必要不可欠な情報のみの収集にとどめるべきである、という姿勢は各国で一致しているのですが、たとえば、従業員に質問し、健康情報を収集することについても、本来は統一されていてしかるべき所ですが、現実には、EU加盟各国間でも、ばらつきが生じてしまっています。日々情勢が変わっておりますので、当局対応に関しては、当局のウェブサイトにて最新情報を別途ご確認ください。

A.EDPBの公表文書のポイントは

  • ①データ処理の合法性の根拠
  • ②データ処理の原則の維持
  • ③モバイル端末位置データの活用
  • ④従業員データの保護
の4つです。

①については、雇用者が、職場の健康維持および安全管理義務を果たすために必要な個人データの処理は、データ主体の同意なしに遂行できる、とされています。
②データ処理原則については、データの利用目的及び保存期間を含め透明性の維持を求めています。セキュリティに関しては、事態の緊急性に鑑みた適切な措置の履行を求めるとともに、なぜそれらの措置を採用するに至ったのか決定のプロセスを文書に残しておくことを求めています。
③は、各国の保健当局が、モバイル端末の位置情報を活用して、特定地域に所在するモバイル端末ユーザに、新型コロナウイルス感染症のリスク情報を送信する際の、情報処理のあり方について述べています。
④では、従業員及び来訪者からの健康情報の収集に関して、データ処理原則の中でも、とりわけ比例原則及び最小限原則の重要性を指摘しています。また、感染者が職場で発生した場合でも、他の従業員に当該従業員の氏名の開示は許容されないことも述べられています。

A.個人が新型コロナウイルス感染症に感染した事実や検査結果、健康状態等(以下「感染事実等」といいます。)の情報は、個人情報のうち、特に慎重な取り扱いが必要となる「要配慮個人情報」に該当します(個人情報保護法第2条3項、個人情報保護法施行令第2条2号3号、個人情報委員会Q&A1-25)。したがって、原則として、あらかじめ本人の同意を得て取得することが必要です(個人情報保護法第17条2項)。

本人から感染事実等の情報を直接取得できる場合は、本人が当該情報を雇用主に直接提供したことをもって、取得について、本人の同意があったものと考えられます(個人情報保護委員会ガイドライン(通則編)3-2-2※2)。

本人から新型コロナウイルス感染症の感染の事実や検査結果等の情報を直接取得できない場合であっても、例外的に

  • ①人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第17条2項2号)
  • ②公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第17条2項3号)
は、あらかじめ本人の同意を得ることなく、感染事実等の情報を取得できる余地があります。

例えば、本人が入院し、本人から同意をとることが困難である場合に、家族から聴取することが考えられます。

なお、労働者の健康情報の取扱いについての「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(以下「留意事項」といいます(平成29年5月29日個情第749号・基発0529第3号))は、感染性の低い感染症の情報は原則として労働者等から取得すべきでないとしています(留意事項・第3の8(3))。しかし、新型コロナウイルス感染症は感染性が極めて高いことは明らかですのでこの点からの取得は制限されないものと考えられます。

A.従業員の家族の感染事実等の情報は、従業員の家族の「要配慮個人情報」に該当します。したがって、原則としてあらかじめ従業員の家族本人の同意を取得することが必要です。

ただ、実際には、従業員が従業員の家族の感染事実等の情報を雇用主に提供するという取得の仕方になることが予想されますが、このような場合には、提供元である従業員が従業員の家族から同意を得る等適法に取得したことが前提となるため、雇用主が取得に先立ち、従業員の家族本人から同意を得る必要はありません(個人情報保護委員会ガイドライン(通則編)3-2-2※2)。

A.個人情報保護法は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならないとしています(個人情報保護法第16条1項)。例外として、

  • ①法令に基づく場合(個人情報保護法第16条3項1号)
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第16条3項2号)
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第16条3項3号)
等は、本人の同意を得なくとも、目的外の利用をすることができます。

まず、各職場の就業規則や個人情報取扱規程で公表されている利用目的の達成に必要であるかを検討することになりますが、「事業活動のため」等の利用目的が記載されていた場合には、新型コロナウイルス感染症の感染を防止し従業員の健康を維持することは目的の達成に必要と考えられます。

次に、疑義がある場合には本人の同意を得るか、上記①②③の例外を検討することになります。感染事実等の情報の取得の場合と同様に、②③を根拠に本人の同意なく目的外の取扱いを行うことができると考えられます。

ただし、従業員の病気や検査結果を、本人の同意なく職場の関係者に知らせたことは、同一法人内であるため、個人情報保護法の第三者提供にはあたらないが、本人の同意がない目的外利用にはあたるとし、その上で本人の同意がない目的外利用は従業員のプライバシー侵害の不法行為に該当するとした裁判例があります(福岡高判平成27年1月29日判時2251号57頁)。

これを踏まえて考えると、同じ職場の他の従業員に知らせるのは「職場に感染者が発生した」という事実に限り、個人を特定できない形にすることが適切と考えられます。

A.個人情報保護法上、個人データ(特定の個人情報を検索可能にした個人情報データベース等に入力した個人情報(個人情報保護法第2条6項))を第三者に提供することは、原則としてあらかじめ本人の同意を得ることが必要となります(個人情報保護法第23条1項本文)。

例外として、

  • ①法令に基づく場合(個人情報保護法第23条1項1号)
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第23条1項2号)
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第23条1項3号)
等は、あらかじめ本人の同意を得なくても、個人データを第三者に提供することができます。

したがって、本人の同意を得ることを原則とし、入院中など本人の同意を得ることが困難な場合は②③を根拠に提供することが考えられます。

ただし、「個人データ」に該当しないと考えられる場合も、「公表している利用目的の達成のために必要な範囲内か」を慎重に検討する必要があります。

したがって、多くの場合、「職場に感染者が発生した」という事実に限り、個人を特定できない形で提供することが適切と考えられます。

A.厚生労働省や保健所等も、「第三者」に該当するため、原則として本人の同意が必要なのですが、例外的に

  • ①法令に基づく場合
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき
には、本人の同意を得なくても、個人データを提供することが許容されます。

したがって、原則として、本人の同意を得ることを原則とし、本人の同意を得ることが出来ない場合でも①②③の例外に該当すると考えられる場合には、提供することができます。①はたとえば、感染症法第15条に基づく質問・調査が考えられます。

ただし、Q7やQ8と同様に公表している利用目的の達成に必要かを考慮する必要がありますので、提供を求める目的や範囲については確認することが適切と考えられます。

<ご参考|外部リンク>

Q1.~Q5.担当 中崎尚弁護士
Q6.~Q10.担当 中崎尚弁護士井上乾介弁護士
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