HOME 著書・論文・ニュースレター等
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
特集 2021年7月

新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題

2021年7月
更新日 2021年7月6日

新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。

オンデマンドセミナー「会社法改正・コロナ禍に対応した株主総会直前対策シリーズセミナー(全6回)」録画配信

当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。

株主総会対応

A. 事前に、来場株主で、体調不良と見受けられる者に対しては運営スタッフがお声がけをする旨及び場合によっては出席をお断りすることがある旨を招集通知等で告知しておくべきであると考えられます。
その上で、まず、受付スタッフが、当該株主に対し、入場を自主的に断念することを促し、また、粘り強く説得するといった対応が考えられます。
そのような説得にもかかわらず、株主が、これに応じない場合、入場を禁止することも考えられます。

A. 株主同士の接触を避けるため、一席ずつ空けて座るよう要請することが考えられます。
少なくとも、詰めて座るよう案内することは避けるべきでしょう。

A. 役員等自身の感染の防止及び役員等による感染拡大防止のため、マスクを着用すべきであると考えられます。
また、マスクを着用したまま発言・答弁をすることも差支えありません。
なお、マスクの着用が失礼に当たるという考え方もあり得ますが、むしろ、マスクを着用していないと、会場の株主から非難の声が上がる可能性も否定できません。

A. 株主の出席を確保する万全の措置を講ずるのであれば、当日でも会場の変更は許されると解されています。そこでなるべく近隣の場所に代替会場を確保するとともに、30分~1時間程度、開始時間を繰り下げる対応とすることが考えられます。
その上で、以下の措置をとるべきであると考えられます。

  • ・会場及び開始時間の変更について、可能な限り、予め、TDnet及び会社のホームページ上で、株主に対し周知
  • ・変更前の会場付近に係員を配置し、来場した株主を、変更後の会場に誘導

A. このような場合、議長となるべき社長に「事故あるとき」に該当し、予め定めた代行順位に従い、別の者が議長に就くことになります。
他方で、もし準備が間に合う場合は、社長が、当該外国からテレビ会議等の方式で株主総会に出席することにより、議長を務めることも可能です。

A. 咳をしている株主に対して、「大変恐縮ですが、コロナウイルス感染防止の観点から、ご退席をお願いできないでしょうか。」などと伝え、任意の退席を促すことが考えられます(もし第2会場やモニター視聴のできる控室を用意しており、使用していない状況であれば、そちらに案内することも考えられます。)。退席に応じる場合には、会場スタッフが付き添って退場させ、どうしても退場に応じない場合には、当該株主の体調等の様子次第では、退場命令を出さざるを得ないこともあるでしょう。

A. 予め委任状用紙を用意しておき、委任状用紙に記入して提出してもらう対応が考えられます。

Q1.~Q7.担当 塚本英巨弁護士生方紀裕弁護士
↑ PAGE TOP

開示関連

A. 通期の決算内容及び四半期決算内容については、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により決算手続き等に遅延が生じ、速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、「事業年度の末日から45日以内」などの時期にとらわれず、確定次第開示することで差し支えありません。*東京証券取引所等|2020年2月10日付「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」
同通知を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の影響により、大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる旨(及び確定時期の見込みがある場合には、その時期)の適時開示を行ったうえで、決算が確定し次第決算発表を行うことが考えられます。

また、有価証券報告書や四半期報告書等の金融商品取引法に基づく開示書類については、金融庁より、2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことに伴い、多くの企業において、決算業務や監査業務を例年どおりに進めることが困難になることが想定されることを踏まえ、企業や監査法人が、決算業務や監査業務のために十分な時間を確保できるよう、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、会社側が個別の申請を行わなくとも、一律に2020年9月末までその提出期限を延長することとされています。
*金融庁|2020年4月14日付「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について
かかる改正の具体的なタイミングは公表されていませんが、これにより、2020年9月末まで有価証券報告書等の開示書類の準備のための猶予期間が設けられることとなります。

また、仮に上記の改正前に有価証券報告書等の開示書類の提出期限が到来する場合でも、新型コロナウイルス感染症の影響に伴って監査業務が継続できないことは、有価証券報告書等の提出期限の延長の要件である「やむをえない事由」に該当するとの見解が示されています。
*金融庁|2020年2月10日付「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」
この要件に該当することを根拠に提出期限の延長を求める場合、財務(支)局長の承認が必要ですので、提出期限延長承認申請について所管の財務(支)局にご相談ください。

A. まず、業績予想の修正に関しては、東京証券取引所等より「今般の新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などにあっては、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられる」との見解が示されており、貴社においてもこれに従ってまずは「未定」とする開示を行うことが考えられます。
なお、東京証券取引所等からは、業績予想について、前提条件や修正時の理由等に関する記載の充実が要請されていることにも留意が必要です。

次に、決算短信については、リスク情報の積極的な開示が要請されており、有価証券報告書等の提出に先立ち、決算短信・四半期決算短信の添付資料等においても新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報を記載するなどの早期の開示をお願いする旨の通知がなされています。

詳細は、以下の東京証券取引所の通知をご参照ください。(他の証券取引所も同様の通知を行っています。)

A. 東京証券取引所その他の証券取引所においては、新型コロナウイルス感染症の影響により債務超過となった場合を想定し、上場廃止基準における改善期間を1年から2年に延長すること(2020年3月期から適用)を想定して、速やかに制度改正手続に着手するとしています。
かかる改正が実現すれば、2期連続での債務超過によりただちに上場廃止となることは避けられるものと考えられます。
貴社においては、今年度の債務超過が新型コロナウイルス感染症の影響によるものであることを東京証券取引所等に対して速やかに説明できるよう、ご準備いただくのがよいかと存じます。

Q1.~Q3.担当 安藤紘人弁護士岡知敬弁護士
↑ PAGE TOP

人事・労務

A. 新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する可能性も視野に入れて、BCPや人事マネジメントの観点から、配慮すべき事項について記します。

  • (1)従業員等の安否確認体制の整備
    「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(「新型インフル特措法」)の改正法が令和2年3月13日に成立し、同月14日に施行されました。この改正は、新型コロナウイルス感染症を同法にいう新型インフルエンザ等とみなすものです。
    新型インフル特措法32条では、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある事態が発生したと認めるときは、緊急事態宣言ができることになっており、企業としても、そのような事態になった場合には、実施区域を含めた宣言の内容を確認の上で、適切な対応をとる必要があります。

    したがって、新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言が発せられた場合を含めて、緊急時に迅速な安否確認をする体制の整備は必要不可欠です。連絡体制・連絡網の確立や、安否確認システムの導入は最低限進めるべきだと考えられます。

    なお、業務によりますが、従業員だけでなく、関連会社、派遣社員、協力会社など、業務に携わる会社や業務従事者との連絡体制・連絡網の確立や安否確認の体制整備も検討課題です。
  • (2)定期異動、組織変更の停止
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する場合等の緊急時においては、重要業務(中核事業)の継続を可能とする体制整備が求められます。
    そして、重要業務の維持のために必要な資源を投入することとなりますので、従業員の緊急時の体制を発足させて有効に機能させるためにも、例えば定期の人事異動や感染拡大前に予定していた組織変更などは最小限にし、これに伴う混乱や業務停滞が生じないようにするなどの配慮も考えられるところです。
    重要業務の維持のための最適化された人員体制が求められますので、例えば、重要業務の維持が急務であり、当該業務に人材が不足しているなどの事情があれば、当該重要業務からの異動は停止しつつ継続して重要業務に当たらせるとともに、当該重要業務への応援人材を早期に投入するなどの判断が必要となります。
    また、逆に、ある重要業務への異動が、その他の重要業務の維持の足かせになるような事情があれば、当該異動を停止することも考えられます。
  • (3)勤務時間や勤務形態の変更等
    Q5をご参照ください。
  • (4)採用活動の延期
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する状況ですので、採用説明会の延期、エントリーシートの締切延長等の措置を講ずることが考えられます。
    また、重要業務の維持のために必要な資源を投入するという観点からも、採用活動を延期して、まずは重要業務の維持に注力するということも考えられます。
  • (5)情報共有
    緊急事態においては、従業員は当然のこと、取引先、消費者、株主、市民、自治体などと情報を共有することが重要です。
    また、特に状況に応じて、従業員の生命身体の安全に係る情報は迅速に共有するとともに、トップの意思決定は明確に行い、迅速に決定を伝達する体制を整備する必要があります。

A. 企業内で新型コロナウイルスによる感染者が出た場合や、企業が入るビル内で感染者が出た場合、さらには新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言がなされた場合などにおいて、感染症の拡大防止を図る観点から、安全配慮義務の一環として、帰宅命令や自宅待機命令を発しなければならない場合もあると考えられます。
安全配慮義務(労働契約法5条)は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務です。
判例でも、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59・4・10判時1116号33頁)があると述べられているところです。

したがって、企業としては、緊急時には、必要な情報を収集して、適時適切な判断の下、速やかに従業員を自宅に帰宅させ、あるいは出勤させずに自宅待機を命じることが相当だとの判断に至れば、速やかに帰宅命令や自宅待機命令を発することになります。

帰宅命令や自宅待機命令を発した場合の賃金等の支払い義務に関しては、状況に応じ、下記Q3記載のとおりに判断されることになります。

A. 休業を実施する場合の賃金支払義務は、休業の原因により、以下のように分かれます。

休業の原因 民法上の
支払義務
(民法536条)
休業手当
支払義務
(労働基準法26条)
不可抗力に基づく場合 ×
(なし)
民法536条
1項
×
(なし)
経営管理上の障害に基づく場合 ×
(なし)
ただし、事業者の故意・過失または信義則上
これと同視すべき事由がないことが前提

民法536条
1項

(あり)
事業者の故意過失に基づく場合
(あり)
民法536条
2項

(あり)
※ただし、事業者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由がないことが前提
  • <休業が不可抗力に基づく場合> 休業が不可抗力に基づく場合、企業には従業員に対する賃金支払義務はなく(民法536条1項)、休業手当の支払義務(労働基準法26条)もありません。
    なお、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月17日時点版)によれば、不可抗力とは、
    • ①その原因が事業の外部から発生した事故であること
    • ②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
    という2つの要件が必要であるとされています。
    上記Q&Aによれば、①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられるとされています。
    また、②に関しては、個別具体的な事情を考慮して、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があるとされています。例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。
    また、前記Q&Aによれば、「例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」とされています。
    したがって、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではないことに注意が必要です。
  • <休業が経営、管理上の障害に基づく場合> 休業が、使用者側の領域において生じたといえる事由(経営、管理上の障害)に基づく場合、企業に故意・過失または信義則上これと同視すべき事由がない場合は100%の賃金支払義務があるとはいえませんが(民法536条1項)、少なくとも平均賃金の60%の休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があります。親会社の経営難のための資金・資材の入手困難等が、使用者側の領域において生じた事由に該当するといわれています。
  • <休業が事業者の故意・過失に基づく場合> 休業が事業者の故意・過失又はこれと信義則上同視すべき事由に基づく場合、就業規則に特段の規定がない限り、会社は原則として従業員に対する100%の賃金支払義務を負います(民法536条2項)。
    なお、この民法536条2項の危険負担の規定は、任意規定であり、特約によりその適用を排除することができます。 ただし、就業規則により、民法536条2項の適用を排除する場合であっても、労働基準法26条の規定は強行法規ですので、平均賃金の60%相当の休業手当の支払は必要です。 これらを踏まえて、就業規則において、「会社都合による休業の場合は、平均賃金の60%のみを支払う」旨の規定を定めておけば、原則として企業は平均賃金の60%相当額の賃金支払義務しか負わないことになります(民法536条2項の適用排除。ただし、横浜地判平成12.12.14労働判例802号27頁(池貝事件)では、事後的な就業規則の変更に関して、労働条件の不利益変更についての合理性が否定され、民法536条2項により100%の賃金の支払いが命じられています。)。

A. 事業者による休業等が実施されていない場合であっても、新型コロナウイルス感染症の影響により、学校(学童保育)を含めた子供の預け先がなくなり、子供の世話を見るために従業員が出勤できない場合も想定されます。このような欠勤は、労務の提供が労働者の意思によってなされなかった場合であるため、当該欠勤日にかかる賃金支払義務はありませんし(民法536条1項)、休業手当の支払義務(労働基準法26条)もありません。いわゆるノーワーク・ノーペイの原則が妥当する場面です。
なお、臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子供を世話するために、令和2年2月27日から3月31日の間だけでなく、令和2年4月1日から6月30日の間に従業員(正規・非正規を問わず)に有給の休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた会社に対し、休暇中に支払った賃金100%相当額(1日8,330円が上限)を助成する制度があります。
*厚生労働省|新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金
また、上記のような理由での欠勤があったとしても、従業員の責めに帰すべき事由による労働義務の不履行ではありませんので、これを理由とした懲戒その他の不利益処分はできません。

A. 新型コロナウイルス感染症への感染を防ぐため、勤務時間や勤務形態の柔軟化を実施する企業が増えています。どのような施策が考えられるのかを以下に述べます。

  • (1)時差通勤
    労働者及び使用者は、始業、終業時刻の繰り下げ繰り上げを定める就業規則に基づき、または、個別合意により、始業、終業の時刻を変更することができます。通勤による混雑具合に応じて、時差通勤の内容について、労使で十分な協議や試行をするなどして時差通勤を導入することが考えられます。
  • (2)テレワーク
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する状況ですので、テレワーク体制の構築も重要課題です。厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」によれば、テレワークとは、「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」をいい、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務などがあります。情報ネットワークの活用が前提ですので、その基盤が構築されていることが肝要です。また、短期間のテレワークであれば、業務命令により対応可能ですが、中長期にわたる場合も考慮して、あらかじめ、テレワークへの移行が円滑に行われるよう時間管理を含めたルールを早急に整備するとともに(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)参照)、緊急時に備えた試験施行をして問題点を整理した上で解決しておくべきです(厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」、厚生労働省「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」参照)。
    また、今般の新型コロナウイルス感染症対策として、新たにテレワークを導入した中小企業事業主を支援するため、時間外労働等改善助成金(テレワークコース)も設けられています。
  • (3)フレックスタイム
    始業、終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度として、フレックスタイム制があります。フレックスタイム制は、清算期間やその期間における総労働時間等を労使協定において定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定し、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。例えば、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けることもできますし、全部をフレキシブルタイムとすることもできます。さらに、テレワークと組み合わせて、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日の労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やす、といった運用が可能です。
    なお、フレックスタイム制の導入に当たっては、労働基準法32条の3に基づき、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる旨定めるとともに、労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定めることが必要です。

A. 新型コロナウイルス感染症拡大による事業への影響を勘案して、企業が、その経営判断において、事業所を統廃合(既存事業の選択と最適化)することは考えられるところです。これら事業所の統廃合における問題点を検討します。

  • (1)従業員に対する配転命令
    事業所の廃止をするのであれば、当該事業所に勤務していた従業員は、他の然るべき事業所に配転させることになります。
    一般的には、就業規則等に配転命令の根拠規定がありますから、当該規定に基づき配転を命ずることができますが、
    • ①業務上の必要性の有無
    • ②不当な動機・目的の有無
    • ③労働者が通常甘受すべき程度を著しく越える不利益の有無
    といった観点から、配転命令が権利濫用となり、無効となる場合があるので留意が必要です(労働契約法3条5項、最判昭和61・7・14判時1198号149頁)。
  • (2)配転命令に従わない従業員の対応
    配転命令に従わない従業員に対しては、最終的には解雇を検討せざるを得ません。この場合の解雇は、配転命令違反を理由とする懲戒解雇や、整理解雇が考えられます。このうち、懲戒解雇は配転命令の有効性を前提として、懲戒解雇処分の相当性が必要です。
    また、整理解雇も従業員の帰責事由に基づくものではないため、その有効性は、
    • ①事業所廃止の経営判断の合理性(=余剰人員削減の必要性)
    • ②解雇回避努力
    • ③人選の合理性
    • ④手続の相当性
    という4つの要素を総合考慮して判断されることになります。
  • (3)勤務地限定の従業員の対応
    他方、配転には労働契約による制限もあり、勤務地限定の従業員には勤務地の変更を命じることはできません。この場合には、まずは十分に業務上の必要性を説明し、本人の希望等を聴取した上で、勤務地の変更を打診することになります。その結果、勤務地の変更に同意すれば問題はありませんが、あくまで同意せず、事業所も廃止される事態となれば、使用者としては、最終的には上記(2)と同じく解雇を検討せざるを得ません。

A. 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績の大幅な落ち込みが当面続くと想定される状況では、企業があらゆる努力を尽くしてもなお、資金繰りその他の面で厳しい状況に至ることが考えられ、その場合の一方策として、賃金カットをすることも考えられるところです。しかし、休業や欠勤等を理由としない賃金カットは、使用者が一方的に自由になし得るものではなく、従業員の真摯な合意がある場合(労働契約法8条)か、合意がない場合は就業規則(賃金規定)の合理的な変更手続(労働契約法10条)によることが必要です。

A. 厚生労働省によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大による今春就職予定の学生らへの採用内定取消しが4月1日時点で23社58人とのことです。
この点、いわゆる採用内定の段階に至れば、始期付き解約権留保付きの労働契約が成立することになります。厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月17日時点版)でも、新卒の採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効となると解説しています。特に新型コロナウイルス感染症の拡大による著しい経営の悪化を理由とする場合は、採用予定者の帰責事由に基づくものではありませんから、採用内定取消しの適法性については、厳格に判断されると解され、慎重な対応が求められます。
なお、企業が、新規学校卒業者の採用内定取消しや、入職時期の繰下げを行おうとする場合は、所定の様式により、事前に、ハローワーク及び学校に通知することが必要となります(職業安定法54条、職業安定法施行規則35条2項2号3号、新規学校卒業者の採用に関する指針)。

A. まずは、雇用確保のために、最大限の経営努力を行い、かつ各種助成措置を積極的に活用することになりますが、著しい経営の悪化等による期間雇用者の雇い止めや期間途中の整理解雇を検討せざるを得ない場合も考えられます。
この点、本来、期間を定めた労働契約を締結している契約社員、パート、アルバイトなどの期間雇用に関しては、期間満了で雇い止めができるのが原則です。
しかし、①当該有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できると認められる場合や、②当該労働者において当該有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由があると認められる場合には、単に期間満了だから雇い止めができるというわけではなく、解雇権濫用法理と同様の厳しい基準で雇い止めの有効性が判断されることになります(労働契約法19条、最判昭和49・7・22判時752号27頁、最判61・12・4、判時1221号134頁)。
なお、期間満了に伴う雇い止めではなく、期間「途中」での解雇は、「やむを得ない事由」がなければできないこととされています(労働契約法17条1項)。ここで「やむを得ない事由」とは、期間満了まで雇用を継続することが不当・不公平と認められるほどに重大な事由を生じたことをいい、期間の定めのない労働契約における解雇権濫用法理(労働契約法16条)の解雇要件より厳格に解されており、慎重な対応が求められます。

A. まずは、雇用確保のために、最大限の経営努力を行い、かつ各種助成措置を積極的に活用することになりますが、著しい経営の悪化等による従業員の解雇を検討せざるを得ない場合も考えられます。このような整理解雇は、従業員の帰責事由に基づくものではないため、その有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性という以下の4つの要素を総合考慮して判断されることになります(労働契約法16条参照)。

①人員削減の必要性 企業の合理的運営上やむを得ない必要があること(当該人数の削減の必要性が認められること)。
②解雇回避努力 企業の置かれた個別具体的状況の中で、解雇を回避するための真摯かつ合理的な経営上の努力を尽くすこと。
③人選の合理性 整理解雇の対象者を恣意的でない客観的・合理的基準で選定すること。
④手続の相当性 整理解雇をするにあたり、会社の状況(人員削減の必要性)、経緯(解雇回避努力)、人選基準等について従業員・労働組合に十分な説明をし、協議すること。
<ご参考|厚生労働省HP>

Q1.~Q10.担当 松村卓治弁護士沢崎敦一弁護士
↑ PAGE TOP