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新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
特集 2020年4月

新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題

2020年4月
更新日 2020年4月10日

新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。



当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。

株主総会対応

Q1. サーモグラフィ等による検温の結果、37.5度以上が測定された株主がいた場合、どのように対応すべきでしょうか?
A. 事前に、来場株主で、体調不良と見受けられる者に対しては運営スタッフがお声がけをする旨及び場合によっては出席をお断りすることがある旨を招集通知等で告知しておくべきであると考えられます。
その上で、まず、受付スタッフが、当該株主に対し、入場を自主的に断念することを促し、また、粘り強く説得するといった対応が考えられます。
そのような説得にもかかわらず、株主が、これに応じない場合、入場を禁止することも考えられます。
Q2. 株主の着席位置について配慮すべき点はありますか?
A. 株主同士の接触を避けるため、一席ずつ空けて座るよう要請することが考えられます。
少なくとも、詰めて座るよう案内することは避けるべきでしょう。
Q3. 壇上に上がる役員や事務局スタッフは、マスクを着用する必要がありますか?
A. 役員等自身の感染の防止及び役員等による感染拡大防止のため、マスクを着用すべきであると考えられます。
また、マスクを着用したまま発言・答弁をすることも差支えありません。
なお、マスクの着用が失礼に当たるという考え方もあり得ますが、むしろ、マスクを着用していないと、会場の株主から非難の声が上がる可能性も否定できません。
Q4. 株主総会の開催日の前に、会場として予定していた施設において、新型コロナウイルス感染症の感染者が発見され、消毒のため、当日の使用が不可となった場合、どのようにすべきでしょうか?
A. 株主の出席を確保する万全の措置を講ずるのであれば、当日でも会場の変更は許されると解されています。そこでなるべく近隣の場所に代替会場を確保するとともに、30分~1時間程度、開始時間を繰り下げる対応とすることが考えられます。
その上で、以下の措置をとるべきであると考えられます。
  • ・会場及び開始時間の変更について、可能な限り、予め、TDnet及び会社のホームページ上で、株主に対し周知
  • ・変更前の会場付近に係員を配置し、来場した株主を、変更後の会場に誘導
Q5. 株主総会の議長となる社長が、外国にいるところ、当該外国から日本への入国が制限されているため、株主総会の当日に日本の開催場所に来ることができなくなりました。このような場合、どのように対応すべきでしょうか?
A. このような場合、議長となるべき社長に「事故あるとき」に該当し、予め定めた代行順位に従い、別の者が議長に就くことになります。
他方で、もし準備が間に合う場合は、社長が、当該外国からテレビ会議等の方式で株主総会に出席することにより、議長を務めることも可能です。
Q6. 株主総会の開会後、株主が咳きこみ始め、他の株主から当該株主を退場させるよう動議が出されました。
どのように対応すべきでしょうか?
A. 咳をしている株主に対して、「大変恐縮ですが、コロナウイルス感染防止の観点から、ご退席をお願いできないでしょうか。」などと伝え、任意の退席を促すことが考えられます(もし第2会場やモニター視聴のできる控室を用意しており、使用していない状況であれば、そちらに案内することも考えられます。)。退席に応じる場合には、会場スタッフが付き添って退場させ、どうしても退場に応じない場合には、当該株主の体調等の様子次第では、退場命令を出さざるを得ないこともあるでしょう。
Q7. 気分が悪くなり、途中退場することになった大口株主から、議決権だけでも行使させてもらえないかとの申し出がありました。
このような場合、どのように対応すべきでしょうか?
A. 予め委任状用紙を用意しておき、委任状用紙に記入して提出してもらう対応が考えられます。

Q1.~Q7.担当 塚本英巨弁護士生方紀裕弁護士
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開示関連

Q1. 新型コロナウイルス感染症の影響により、一部子会社で決算手続きに遅延が生じ監査業務が継続できない状態となっています。
このままでは決算が確定せず、決算短信や有価証券報告書等の開示が間に合わない可能性がありますが、どのように対応すべきでしょうか?
A. 通期の決算内容及び四半期決算内容については、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により決算手続き等に遅延が生じ、速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、「事業年度の末日から45日以内」などの時期にとらわれず、確定次第開示することで差し支えありません。*東京証券取引所等2020年2月10日付「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」
同通知を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の影響により、大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる旨(及び確定時期の見込みがある場合には、その時期)の適時開示を行ったうえで、決算が確定し次第決算発表を行うことが考えられます。

また、有価証券報告書や四半期報告書等の金融商品取引法に基づく開示書類については、金融庁より、新型コロナウイルス感染症の影響に伴って監査業務が継続できないことは、有価証券報告書等の提出期限の延長の要件である「やむをえない事由」に該当するとの見解が示されています。*金融庁2020年2月10日付「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」
提出期限の延長には財務(支)局長の承認が必要ですので、提出期限延長承認申請について所管の財務(支)局にご相談ください。
Q2. 新型コロナウイルス感染症の影響により、多数のプロジェクトのキャンセル・延期の可能性が高まっており、業績に重大な影響を及ぼす可能性がありますが、現状では影響額を見積もることは困難です。
業績予想や決算短信における適時開示はどのように対応すべきでしょうか?
A. まず、業績予想の修正に関しては、東京証券取引所等より「今般の新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などにあっては、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられる」との見解が示されており、貴社においてもこれに従ってまずは「未定」とする開示を行うことが考えられます。
なお、東京証券取引所等からは、業績予想について、前提条件や修正時の理由等に関する記載の充実が要請されていることにも留意が必要です。

次に、決算短信については、リスク情報の積極的な開示が要請されており、有価証券報告書等の提出に先立ち、決算短信・四半期決算短信の添付資料等においても新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報を記載するなどの早期の開示をお願いする旨の通知がなされています。

詳細は、以下の東京証券取引所の通知をご参照ください。(他の証券取引所も同様の通知を行っています。)

Q3. 当社は、昨年度債務超過となり、上場廃止に係る猶予期間に入っています。今年度の債務超過解消に向けて努力してきましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、急激に業績が悪化し、債務超過解消が困難な状況です。
2期連続の債務超過による上場廃止を避ける方法はないでしょうか?
A. 東京証券取引所その他の証券取引所においては、新型コロナウイルス感染症の影響により債務超過となった場合を想定し、上場廃止基準における改善期間を1年から2年に延長すること(2020年3月期から適用)を想定して、速やかに制度改正手続に着手するとしています。
かかる改正が実現すれば、2期連続での債務超過によりただちに上場廃止となることは避けられるものと考えられます。
貴社においては、今年度の債務超過が新型コロナウイルス感染症の影響によるものであることを東京証券取引所等に対して速やかに説明できるよう、ご準備いただくのがよいかと存じます。

Q1.~Q3.担当 安藤紘人弁護士岡知敬弁護士
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人事・労務

Q1. 【感染症拡大と人事マネジメント】
当社では、いわゆる事業継続(BCP)や人事マネジメントの観点から何らの対策も講じていませんでした。
新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する可能性も視野に入れて、BCPや人事マネジメントの観点から、対応すべき事項はありますか?
A. 新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する可能性も視野に入れて、BCPや人事マネジメントの観点から、配慮すべき事項について記します。

  • (1)従業員等の安否確認体制の整備
    「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(「新型インフル特措法」)が令和2年3月13日に成立し、同月14日に施行されました。この改正は、新型コロナウイルス感染症を同法にいう新型インフルエンザ等とみなすものです。
    新型インフル特措法32条では、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある事態が発生したと認めるときは、緊急事態宣言ができることになっており、企業としても、そのような事態になった場合には、実施区域を含めた宣言の内容を確認の上で、適切な対応をとる必要があります。

    したがって、新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言が発せられた場合を含めて、緊急時に迅速な安否確認をする体制の整備は必要不可欠です。連絡体制・連絡網の確立や、安否確認システムの導入は最低限進めるべきだと考えられます。

    なお、業務によりますが、従業員だけでなく、関連会社、派遣社員、協力会社など、業務に携わる会社や業務従事者との連絡体制・連絡網の確立や安否確認の体制整備も検討課題です。
  • (2)定期異動、組織変更の停止
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する場合等の緊急時においては、重要業務(中核事業)の継続を可能とする体制整備が求められます。
    そして、重要業務の維持のために必要な資源を投入することとなりますので、従業員の緊急時の体制を発足させて有効に機能させるためにも、例えば定期の人事異動や感染拡大前に予定していた組織変更などは最小限にし、これに伴う混乱や業務停滞が生じないようにするなどの配慮も考えられるところです。
    重要業務の維持のための最適化された人員体制が求められますので、例えば、重要業務の維持が急務であり、当該業務に人材が不足しているなどの事情があれば、当該重要業務からの異動は停止しつつ継続して重要業務に当たらせるとともに、当該重要業務への応援人材を早期に投入するなどの判断が必要となります。
    また、逆に、ある重要業務への異動が、その他の重要業務の維持の足かせになるような事情があれば、当該異動を停止することも考えられます。
  • (3)勤務時間や勤務形態の変更等
    Q5をご参照ください。
  • (4)採用活動の延期
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する状況ですので、採用説明会の延期、エントリーシートの締切延長等の措置を講ずることが考えられます。
    また、重要業務の維持のために必要な資源を投入するという観点からも、採用活動を延期して、まずは重要業務の維持に注力するということも考えられます。
  • (5)情報共有
    緊急事態においては、従業員は当然のこと、取引先、消費者、株主、市民、自治体などと情報を共有することが重要です。
    また、特に状況に応じて、従業員の生命身体の安全に係る情報は迅速に共有するとともに、トップの意思決定は明確に行い、迅速に決定を伝達する体制を整備する必要があります。
Q2. 【感染症拡大と休業】
企業内で新型コロナウイルスによる感染者が出た場合や、企業が入るビル内で感染者が出た場合、さらには新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言がなされた場合などにおいて、感染症の拡大防止を図る観点から、従業員に対し、帰宅命令や自宅待機命令を発することはできますか?
A. 企業内で新型コロナウイルスによる感染者が出た場合や、企業が入るビル内で感染者が出た場合、さらには新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言がなされた場合などにおいて、感染症の拡大防止を図る観点から、安全配慮義務の一環として、帰宅命令や自宅待機命令を発しなければならない場合もあると考えられます。
安全配慮義務(労働契約法5条)は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務です。
判例でも、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(最判昭和59・4・10判時1116号33頁)があると述べられているところです。

したがって、企業としては、緊急時には、必要な情報を収集して、適時適切な判断の下、速やかに従業員を自宅に帰宅させ、あるいは出勤させずに自宅待機を命じることが相当だとの判断に至れば、速やかに帰宅命令や自宅待機命令を発することになります。

帰宅命令や自宅待機命令を発した場合の賃金等の支払い義務に関しては、状況に応じ、下記Q3記載のとおりに判断されることになります。
Q3. 【感染症拡大と休業】
新型コロナウイルス感染症の拡大により、原材料の仕入れも困難な状況になっており、工場の操業ができないため、やむを得ず社員に関して、休業を実施しようと考えていますが、賃金の支払義務や休業手当の支払義務はありますか?
A. 休業を実施する場合の賃金支払義務は、休業の原因により、以下のように分かれます。
休業の原因 民法上の支払義務
(民法536条)
休業手当支払義務
(労働基準法26条)
不可抗力に基づく場合 ×
(なし)
民法536条1項
×
(なし)
経営管理上の障害に基づく場合 ×
(なし)
民法536条1項

(あり)
事業者の故意過失に基づく場合
(あり)
民法536条2項

(あり)
  • <休業が不可抗力に基づく場合> 休業が不可抗力に基づく場合、企業には従業員に対する賃金支払義務はなく(民法536条1項)、休業手当の支払義務(労働基準法26条)もありません。
    なお、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年3月19日時点版)によれば、不可抗力とは、
    • ①その原因が事業の外部から発生した事故であること
    • ②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
    という2つの要件が必要であるとされています。
    したがって、その判断に当たっては、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。
    なお、前記Q&Aによれば、「例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」とされています。
  • <休業が経営、管理上の障害に基づく場合> 休業が、使用者側の領域において生じたといえる事由(経営、管理上の障害)に基づく場合、企業には100%の賃金支払義務があるとはいえませんが(民法536条1項)、少なくとも平均賃金の60%の休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があります。親会社の経営難のための資金・資材の入手困難等が、使用者側の領域において生じた事由に該当するといわれています。
  • <休業が事業者の故意・過失に基づく場合> 休業が事業者の故意・過失又はこれと信義則上同視すべき事由に基づく場合、就業規則に特段の規定がない限り、会社は原則として従業員に対する100%の賃金支払義務を負います(民法536条2項)。
    なお、この民法536条2項の危険負担の規定は、任意規定であり、特約によりその適用を排除することができます。 ただし、就業規則により、民法536条2項の適用を排除する場合であっても、労働基準法26条の規定は強行法規ですので、平均賃金60%相当の休業手当の支払は必要です。 これらを踏まえて、就業規則において、「会社都合による休業の場合は、平均賃金の60%のみを支払う」旨の規定を定めておけば、原則として会社は平均賃金の60%相当額の賃金支払義務しか負わないことになります(民法536条2項の適用排除。ただし、横浜地判平成12.12.14労働判例802号27頁(池貝事件)では、労働条件の不利益変更についての合理性が否定され、民法536条2項により100%の賃金の支払いが命じられています。)。
Q4. 【感染症拡大と休業】
新型コロナウイルス感染症の影響により、学校(学童保育)を含めた子供の預け先がなくなり、子供の面倒を見るために出勤できない従業員に対し、賃金の支払義務はありますか。
また、欠勤の理由によっては、懲戒その他の不利益処分をすることもできますか?
A. 事業者による休業等が実施されていない場合であっても、新型コロナウイルス感染症の影響により、学校(学童保育)を含めた子供の預け先がなくなり、子供の世話を見るために従業員が出勤できない場合も想定されます。このような欠勤は、労務の提供が労働者の意思によってなされなかった場合であるため、当該欠勤日にかかる賃金支払義務はありませんし(民法536条1項)、休業手当の支払義務(労働基準法26条)もありません。いわゆるノーワーク・ノーペイの原則が妥当する場面です。
なお、臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子供を世話するために、令和2年2月27日から3月31日の間に従業員(正規・非正規を問わず)に有給の休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた会社に対し、休暇中に支払った賃金全額(1日8,330円が上限)を助成する制度があります。
*厚生労働省|新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金
また、上記のような理由での欠勤があったとしても、従業員の責めに帰すべき事由による労働義務の不履行ではありませんので、これを理由とした懲戒その他の不利益処分はできません。
Q5. 【感染症拡大と勤務時間や勤務形態の変更】
当社では新型コロナウイルス感染症対策の一貫として、勤務時間や勤務形態の柔軟化を検討しています。
どのような施策が考えられますか?
また、勤務時間や勤務形態等の変更に伴う手続はどのようなものですか?
A. 新型コロナウイルス感染症への感染を防ぐため、勤務時間や勤務形態の柔軟化を実施する企業が増えています。どのような施策が考えられるのかを以下に述べます。
  • (1)時差通勤
    労働者及び使用者は、始業、終業時刻の繰り下げ繰り上げを定める就業規則に基づき、または、個別合意により、始業、終業の時刻を変更することができます。通勤による混雑具合に応じて、時差通勤の内容について、労使で十分な協議や試行をするなどして時差通勤を導入することが考えられます。
  • (2)テレワーク
    新型コロナウイルス感染症の拡大が継続する状況ですので、テレワーク体制の構築も重要課題です。厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」によれば、テレワークとは、「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」をいい、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務などがあります。情報ネットワークの活用が前提ですので、その基盤が構築されていることが肝要です。また、短期間のテレワークであれば、業務命令により対応可能ですが、中長期にわたる場合も考慮して、あらかじめ、テレワークへの移行が円滑に行われるよう時間管理を含めたルールを早急に整備するとともに(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)参照)、緊急時に備えた試験施行をして問題点を整理した上で解決しておくべきです(厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」、厚生労働省「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」参照)。
    また、今般の新型コロナウイルス感染症対策として、新たにテレワークを導入した中小企業事業主を支援するため、時間外労働等改善助成金(テレワークコース)も設けられています。
  • (3)フレックスタイム
    始業、終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度として、フレックスタイム制があります。フレックスタイム制は、清算期間やその期間における総労働時間等を労使協定において定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定し、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。例えば、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けることもできますし、全部をフレキシブルタイムとすることもできます。さらに、テレワークと組み合わせて、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日の労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やす、といった運用が可能です。
    なお、フレックスタイム制の導入に当たっては、労働基準法32条の3に基づき、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる旨定めるとともに、労使協定において、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定めることが必要です。
Q6. 【感染症拡大と事業所の統廃合、賃金カット】
新型コロナウイルス感染症による事業への影響を勘案して、事業所の統廃合を予定していますが、異動命令に従わない社員に対してどう対処すればよいですか?
A. 新型コロナウイルス感染症拡大による事業への影響を勘案して、企業が、その経営判断において、事業所を統廃合(既存事業の選択と最適化)することは考えられるところです。これら事業所の統廃合における問題点を検討します。
  • (1)従業員に対する配転命令
    事業所の廃止をするのであれば、当該事業所に勤務していた従業員は、他の然るべき事業所に配転させることになります。
    一般的には、就業規則等に配転命令の根拠規定がありますから、当該規定に基づき配転を命ずることができますが、
    • ①業務上の必要性の有無
    • ②不当な動機・目的の有無
    • ③労働者が通常甘受すべき程度を著しく越える不利益の有無
    といった観点から、配転命令が権利濫用となり、無効となる場合があるので留意が必要です(労働契約法3条5項、最判昭和61・7・14判時1198号149頁)。
  • (2)配転命令に従わない従業員の対応
    配転命令に従わない従業員に対しては、最終的には解雇を検討せざるを得ません。この場合の解雇は、配転命令違反を理由とする懲戒解雇や、整理解雇が考えられます。このうち、懲戒解雇は配転命令の有効性を前提として、懲戒解雇処分の相当性が必要です。
    また、整理解雇も従業員の帰責事由に基づくものではないため、その有効性は、
    • ①事業所廃止の経営判断の合理性(=余剰人員削減の必要性)
    • ②解雇回避努力
    • ③人選の合理性
    • ④手続の相当性
    という4つの要素を総合考慮して判断されることになります。
  • (3)勤務地限定の従業員の対応
    他方、配転には労働契約による制限もあり、勤務地限定の従業員には勤務地の変更を命じることはできません。この場合には、まずは十分に業務上の必要性を説明し、本人の希望等を聴取した上で、勤務地の変更を打診することになります。その結果、勤務地の変更に同意すれば問題はありませんが、あくまで同意せず、事業所も廃止される事態となれば、使用者としては、最終的には上記(2)と同じく解雇を検討せざるを得ません。
Q7. 【感染症拡大と事業所の統廃合、賃金カット】
新型コロナウイルス感染症の拡大により、業績の大幅な落ち込みが当面続くと想定される状況ですが、従業員の賃金カットをすることはできますか?
A. 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績の大幅な落ち込みが当面続くと想定される状況では、企業があらゆる努力を尽くしてもなお、資金繰りその他の面で厳しい状況に至ることが考えられ、その場合の一方策として、賃金カットをすることも考えられるところです。しかし、休業や欠勤等を理由としない賃金カットは、使用者が一方的に自由になし得るものではなく、従業員の真摯な合意がある場合(労働契約法8条)か、合意がない場合は就業規則(賃金規定)の合理的な変更手続(労働契約法10条)によることが必要です。
Q8. 【感染症拡大と採用内定取消し、雇止め、整理解雇】
新型コロナウイルス感染症の影響で業績の落ち込みが激しく、著しい経営の悪化に至った場合、採用内定の取消しができますか?
A. 厚生労働省によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大による今春就職予定の学生らへの採用内定取消しが3月19日時点で13社21人とのことです。
この点、いわゆる採用内定の段階に至れば、始期付き解約権留保付きの労働契約が成立することになります。厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年3月19日時点版)でも、新卒の採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効となると解説しています。特に新型コロナウイルス感染症の拡大による著しい経営の悪化を理由とする場合は、採用予定者の帰責事由に基づくものではありませんから、採用内定取消しの適法性については、厳格に判断されると解され、慎重な対応が求められます。
なお、企業が、新規学校卒業者の採用内定取消しや、入職時期の繰下げを行おうとする場合は、所定の様式により、事前に、ハローワーク及び学校に通知することが必要となります(職業安定法54条、職業安定法施行規則35条2項2号3号、新規学校卒業者の採用に関する指針)。
Q9. 【感染症拡大と採用内定取消し、雇止め、整理解雇】
新型コロナウイルス感染症の影響で業績の落ち込みが激しく、著しい経営の悪化に至った場合、期間雇用者の雇止めや期間途中の整理解雇ができますか?
A. まずは、雇用確保のために、最大限の経営努力を行い、かつ各種助成措置を積極的に活用することになりますが、著しい経営の悪化等による期間雇用者の雇い止めや期間途中の整理解雇を検討せざるを得ない場合も考えられます。
この点、本来、期間を定めた労働契約を締結している契約社員、パート、アルバイトなどの期間雇用に関しては、期間満了で雇い止めができるのが原則です。
しかし、①当該有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できると認められる場合や、②当該労働者において当該有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由があると認められる場合には、単に期間満了だから雇い止めができるというわけではなく、解雇権濫用法理と同様の厳しい基準で雇い止めの有効性が判断されることになります(労働契約法19条、最判昭和49・7・22判時752号27頁、最判61・12・4、判時1221号134頁)。
なお、期間満了に伴う雇い止めではなく、期間「途中」での解雇は、「やむを得ない事由」がなければできないこととされています(労働契約法17条1項)。ここで「やむを得ない事由」とは、期間満了まで雇用を継続することが不当・不公平と認められるほどに重大な事由を生じたことをいい、期間の定めのない労働契約における解雇権濫用法理(労働契約法16条)の解雇要件より厳格に解されており、慎重な対応が求められます。
Q10. 【感染症拡大と採用内定取消し、雇止め、整理解雇】
新型コロナウイルス感染症の影響で業績の落ち込みが激しく、著しい経営の悪化に至った場合、整理解雇ができますか?
A. まずは、雇用確保のために、最大限の経営努力を行い、かつ各種助成措置を積極的に活用することになりますが、著しい経営の悪化等による従業員の解雇を検討せざるを得ない場合も考えられます。このような整理解雇は、従業員の帰責事由に基づくものではないため、その有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性という以下の4つの要素を総合考慮して判断されることになります(労働契約法16条参照)。
①人員削減の必要性 企業の合理的運営上やむを得ない必要があること(当該人数の削減の必要性が認められること)。
②解雇回避努力 企業の置かれた個別具体的状況の中で、解雇を回避するための真摯かつ合理的な経営上の努力を尽くすこと。
③人選の合理性 整理解雇の対象者を恣意的でない客観的・合理的基準で選定すること。
④手続の相当性 整理解雇をするにあたり、会社の状況(人員削減の必要性)、経緯(解雇回避努力)、人選基準等について従業員・労働組合に十分な説明をし、協議すること。
<ご参考|厚生労働省HP>

Q1.~Q10.担当 松村卓治弁護士沢崎敦一弁護士
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企業危機管理

Q1. 従業員が感染した場合、企業はどのような措置をとる必要がありますか?
A. 従業員の感染が確認された場合、安全配慮義務(労働契約法5条)の観点からは、所轄保健所と連携の上、感染者及び濃厚接触者の特定、在宅勤務指示と健康観察、就業エリア・共用部の消毒、社内における状況の告知、さらには一定期間の事業所の閉鎖などの措置をとる必要があります。
なお、従業員の休業や勤務時間・勤務形態等の変更に伴う問題について、詳細は「人事・労務Q&A」のQ2~Q5をご参照ください。

さらに、企業としては、対外的に感染を公表するかどうかが問題となります。対外公表については、法令上義務づけられているものではありませんが、2020年2月以降の各社の対応状況を見ると、対外的な公表事例が増えてきているのが現状です。

具体的には、感染確認後速やかに、
  • ①感染確認日
  • ②感染者が確認されたビルの名称・所在地
  • ③感染者の属性(正社員か派遣社員か、グループ会社社員か等)
  • ④感染経緯(イベント参加等)
  • ⑤感染者数
  • ⑥顧客と接する業務に従事していたか否か
  • ⑦感染後の感染者の状況
  • ⑧感染確認後の企業の対応状況
等を公表し、適宜更新している例が見られます。

感染者のプライバシー・個人情報や企業に対する風評被害に配慮しつつも、社内外における感染拡大防止に向けた適時・適切な情報発信を行うことが、結局は企業としての信頼の維持につながると考えられます。
Q2. 事業継続計画(BCP)は、どのように活用すればよいでしょうか?
A. かつての重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行(2002年~2003年)や、東日本大震災(2011年)等を受けて、事業継続計画(Business Continuity Plan=企業が自然災害やテロあるいは重大感染症等の緊急事態に直面した際に中核事業の継続・早期復旧を可能にするための手順、以下「BCP」といいます。)を策定している企業が多く見られます。

今回のケースにおけるBCP発動の前提として、新型コロナウイルス感染症を含む感染症リスクの特性を把握する必要がありますが、感染症の場合、地震や火災といった自然災害と異なり、企業の施設や通信手段・各種インフラといった物的資源が直接ダメージを被ることはない一方で、人的資源(従業員・取引先・顧客)に損失が発生する点が大きな特徴となります。

具体的には、①感染被害及び感染拡大防止措置に伴って従業員の労働力が奪われ、また、②国内外での感染の拡大に伴い、サプライチェーンの断絶による事業活動に影響するといった事態も発生しています。
さらには、③旅館業や飲食店などの接客業では、仮に従業員や顧客に感染がなくとも顧客離れによる経営難に直面している例もあります。

  • ①の問題については、万が一自社での感染が確認された場合、BCPに沿って対策本部を設置し、Q1で説明した感染拡大防止のための初動対応をとることがまずは重要となります。
    加えて、感染の有無にかかわらず、人的資源の継続活用を可能とするテレワークや、テレワークを可能とするITシステムの構築・活用を実施し、その旨ホームページ上で公表している企業も多く、テレワークの活用によって、現時点(2020年3月24日時点)では日本国内の中核事業に特段大きな影響が生じていないという企業も散見されるところです。
    (人事マネジメントの観点からのBCPについては、「人事・労務Q&A」のQ1もあわせてご参照ください。)

  • ②については、欧米を中心とする新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、これに伴う各国政府レベルでの非常事態宣言に伴い、海外における工場の閉鎖や一時操業停止が報じられているところであり、例えばグローバル展開を行う日本の製造メーカーであれば、中核事業を守るべく、BCPに沿って、サプライチェーンの上流から下流まで滞りなく材料・部品の供給がなされることを確保し、また、事業のボトルネックとなるサプライチェーンの代替先の検討を行う必要があります。
    また、日本国内の感染状況も先行き不透明であるため、国内のサプライチェーンについても、万が一の操業停止などに備えた対応が必要です。

  • ③について、顧客離れが深刻で経営難に陥るおそれがある場合は、BCPにしたがい、今後の財務予測を立て、財務対策として当面の運転資金を確保し(政府系金融機関等による緊急融資制度や信用保証制度の活用も検討)、仕入先や給与の支払いに努めるとともに、経営の立て直し策の検討(商工会議所や商工会などの特別相談窓口の利用も検討)を行う必要があります。
    (上記②のサプライチェーン毀損対応や、③の企業に対する資金繰りや経営環境の整備支援については、経済産業省作成のパンフレット「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」が参考になります。
    なお、経済産業省により、新型コロナウイルス感染症により特に重大な影響が生じている40業種について、セーフティネット保証5号の対象とすることが決定されています。)

日本では2020年4月7日に7都府県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県)を対象に改正新型インフルエンザ対策特別措置法上の緊急事態宣言が発令されました(実施期間は同年5月6日まで)。緊急事態宣言に伴う外出自粛要請や施設使用制限要請等は強制力を伴うものではないものの、先行きが不透明な状況が続いていますので、①に加え 、上記②・③その他中核事業が毀損する事態があり得ることを想定した上で、自社のBCPの診断、維持・更新を行うことが引き続き必要と思われます。
(上記①については、従業員の罹患だけでなく、代表者やマネジメントが罹患した場合の指揮命令系統の立て直しについても予め検討しておくことが考えられます。)

Q1.,Q2.担当 西谷敦弁護士
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事業再生

Q1. 売上げの急減により資金繰りが苦しく、借入れのある金融機関に対する元金や利息の支払の負担が重い場合、どのように対処すればよいでしょうか?
A. 金融機関に対して、元金の弁済期の猶予(リスケジュール)を求める申入れを行い、合意が得られるよう協議することが適切です。元金のリスケジュールの合意を得るためには、通例、利息の支払は継続する必要があります。

今般の新型コロナウィルス感染症の影響拡大を受けて、金融庁は、本年3月6日、官民の金融機関に対して、「既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること。また、この取組状況を報告すること」を求めており(*参照|財務省)、各金融機関においては、これを踏まえた対応をすることが期待されています。

また、安倍晋三内閣総理大臣は、本年3月28日に行われた記者会見において、「この後、政府対策本部を開催し、緊急経済対策の策定を指示いたします。リーマン・ショック以来の異例のことではありますが、来年度予算の補正予算を編成し、できるだけ早期に国会に提出いたします。国税・地方税の減免、金融措置も含め、あらゆる政策を総動員して、かつてない強大な政策パッケージを練り上げ、実行に移す考えです。」、「中小・小規模事業者の皆さんには、既に実質無利子・無担保、最大5年間元本返済据置きという大胆な資金繰り支援策を講じてきたところですが、この無利子融資を民間金融機関でも受けられるようにいたします。」との指針を示しました(*参照|首相官邸)。これらの施策により、事業者の資金繰りの早期の改善が図られることが望まれます。

一般に、金融機関との間での交渉にあたっては、次のポイントに留意する必要があります。
• 新型コロナウィルス感染症の終息時期は不透明ではあるものの、不採算事業の撤退・縮小や固定費の節減等を通じて、事業の継続の見通しについて十分な理解を求めることが必要です。
• 複数の金融機関に対してリスケジュールを要請する場合には、各金融機関の間に不公平が生じないよう対応に留意する必要があり、また、各金融機関に対して、経営状況についての十分な情報の開示が必要です。
• 金融機関との間で、公平性・公正性・透明性に十分に配慮し、預金相殺や担保実行などのリスクをできるだけ回避した形で債務の弁済に関する交渉を行うために、弁護士が代理人となって、金融機関に対して、一時的に債務弁済の猶予と債権回収行為(相殺・担保実行・倒産申立て等)の停止を求める旨の通知を行い、再建計画案を示して金融機関の説得を図ることが多く行われています。特に、金融機関に対して元金のみならず利息の支払も止める必要がある場合、さらに、金融機関との間で債権カットを申し入れる必要がある場合には、速やかに弁護士に相談するのが適切であり、当事務所でも多くの実績があります。
• 金融機関との協議は、手続の公平性・公正性・透明性、税務上の取扱い上の利点、金融機関における経済合理性などの観点から、弁護士が代理人となって、「事業再生ADR」手続または「中小企業再生支援協議会」手続などの公的な手続によって行うことが望ましいといえます。しかし、そのための時間や費用がままならない場合には、これらの公的な手続によらずに、弁護士が代理人となって各金融機関に協議の申入れをすることも多く行われています(いわゆる「純粋私的整理」)。
• こうした金融機関との話合いによる債務整理(私的整理)は、金融機関以外の債権者には極秘で進められます。これは、金融機関との私的整理においては、金融機関以外の債権者(特に、仕入債権者などの取引債権者)に対する支払が継続されることによって、事業が劣化・毀損することを最小限に食い止めることが想定されているからです。したがって、金融機関との私的整理は、通例、金融機関に対する債務以外の債務(買掛金、給料・退職金、公租公課など)については支払える見込みがあることが必要です(買掛金等の支払の目途が立たない場合には、後述する民事再生の申立てなどを検討する必要が生じ得ます)。
• 一般に、複数の金融機関との私的整理においては、すべての金融機関の同意が得られることが必要であり、多数決によるわけではありません。
• いま会社を清算してたたんでしまうよりも、事業を継続して再建を図る方が、金融機関にとっても、弁済額や弁済率の上で、結局は利益となること(経済合理性)について、金融機関に十分に説明し、理解を求めることが必要です。
Q2. 税金や社会保険料など、公租公課の支払の負担が重い場合、どのように対処すればよいでしょうか?
A. 資金繰りが苦しく、納期限までの公租公課の支払が厳しい場合には、税務署等と相談し、分割納付などの申入れを行い、了解を求めることが考えられます。

また、国税や厚生年金保険料等については、納付の猶予制度(*参照|国税庁)が設けられており、税務署や年金事務所(*参照|日本年金機構)と相談することが考えられます(この制度の条件を満たしていない場合にも、上述の分割納付などの申入れを行うことは別途考えられます。)。

前述したとおり、今般の新型コロナウィルス感染症の影響拡大を受けて、国は、公租公課の取扱いを含めて、かつてない規模での施策を講ずることを公表していますので、その内容や動向を引き続き注視し、できるかぎり資金繰りの改善に役立てることが望まれます。
Q3. 金融機関との私的整理を行うことが難しい場合には、どのように対処すればよいでしょうか?
A. 金融機関との話合いによる解決が、資金繰り上の時間的な制約・逼迫や、金融機関の不同意等により困難である場合には、裁判所における法的整理を視野に入れた検討が必要です。

裁判所における再建型の法的整理の代表例としては、「民事再生手続」があります。民事再生手続は、どのような法人でも利用することができます。すなわち、株式会社、有限会社、合同会社などの会社に限られず、医療法人、学校法人、一般社団法人など、あらゆる法人が利用することができます。

今般の新型コロナウィルス感染症の影響拡大に伴って、さまざまな業種の事業者において、苦境・窮境に陥ることが懸念されていますが、民事再生手続は、どのような業種においても利用することができます。

民事再生手続のポイントは、次の通りです。
• 弁護士が代理人となって、裁判所に申立てを行います。裁判所への予納金は、管轄裁判所や負債総額によって差がありますが、例えば東京地裁では、負債総額が10億円~50億円未満の場合、原則として600万円の納付が必要です。このほか、申立代理人弁護士などの専門家費用が必要です。
• 民事再生手続の申立てと同時に、申立日の前日までの原因に基づく債務(=旧債務)の弁済が原則として禁止され、いったん棚上げになります。この意味で、旧債務との関係では資金繰りは一時的に改善されます(ただし、旧債務との預金相殺などに留意する必要があります。)。他方、申立日以後の原因に基づく債務(=新債務)の弁済は免れません。場合によっては、支払サイトの短縮化、現金払い(代金引換、キャッシュ・オン・デリバリー)、保証金の支払などを条件としなければ取引を継続しないという業者も現れる可能性があります。この意味で、新債務との関係で、申立て以後の資金繰りが継続できるよう、申立代理人弁護士との間で、早い段階から十分な相談・検討が必要です。
• 民事再生手続では、原則として、現在の経営陣(役員)が、そのまま民事再生手続においても職務を遂行します。ただし、一定の重要な行為については、裁判所の許可事項、または裁判所から選任された弁護士である監督委員による同意事項とされていますので、裁判所や監督委員による監督を受けて職務を遂行することになります。経営陣に問題がある行為が発見された場合などにおいては、裁判所によって管財人が選任されることがあり、その場合には、以後、管財人が民事再生手続を遂行します。
• 民事再生手続では、「スポンサー」と呼ばれる支援者の選定(スポンサーへの事業譲渡、会社分割、新株発行など)または自主再建などによる再建プラン(再生計画案)を立てて、無担保一般債権者の多数決による同意と裁判所の認可を得ることが必要であり、認可確定後の再生計画に基づいて、債権者に対する弁済を行います。東京地裁の標準スケジュールでは、申立てから再生計画の認可まで5か月間が予定されています。事業の劣化が急速に進んでいる場合には、スポンサーに対して、再生計画の定めによらずに、スピーディに事業譲渡を行うこともできます。
• 前述した金融機関との私的整理においては、取引債権者(私的整理など)は手続の対象外なので平常通り100%支払われますが、民事再生手続では、原則として、取引債権者の債権はカットされ、再生計画により弁済されます。弁済率は、スポンサーからどの程度の支援が得られたか、スポンサーがいない場合には自主再建によりどれだけの収益が見込めるかなどの諸事情を総合的に検討して決せられ、無担保一般債権者には一律、同じ弁済率が適用されます。なお、例外的に、取引債権者に対して100%の弁済がされる場合もありますが、これは、そのための資金繰りの目途がつけられる場合で、一定の条件を満たした場合に限られます。
• 民事再生手続では、労働債権者や租税債権者は、優先的な債権者(一般優先債権)として保護されます。すなわち、労働債権や租税債権は再生計画でカットすることはできませんので、給与・退職金や、公租公課の支払の目途が立てられることが必要です。
• 民事再生手続では、担保権を有する債権者は、原則として担保権を実行することができます。したがって、重要な資産の上に担保権が設定されていて、担保権が実行されると事業の継続に困難が生ずるおそれがある場合には、担保権者との間で、民事再生手続の申立ての直後から至急協議し、早期に和解的な解決(別除権協定)を図ることが必要です。特に、売掛金や在庫など重要な流動財産に担保権が設定されている場合には、裁判所に担保権実行手続の中止命令の申立てを行い、中止されている期間内に、別除権協定を結ぶことも検討します。
• 裁判所における再建型の法的整理としては、民事再生手続のほかに、「会社更生手続」があります。
民事再生手続は、前述のとおり、
  • ①すべての法人が利用することができ
  • ②原則として現在の経営陣が手続を遂行することができ
  • ③原則として担保付債権者が担保権を実行すること
ができます。
これに対して、会社更生手続は、
  • ①株式会社と有限会社のみが利用することができ
  • ②裁判所により管財人が必ず選任され
    (違法な経営責任の問題がなく主要債権者も了解しているなどの場合には経営陣から管財人が選任される場合もあります)
  • ③担保付債権者による担保権の実行は厳しく制約されています。
申立ての要件は、支払不能のおそれ・債務超過のおそれなど、民事再生手続と会社更生手続でほぼ共通しており、いずれを選択するかは、これら①②③の要素を中心に、さまざまな事情を熟慮して検討することになります。当事務所では、いずれの手続についても多数の実績を有しております。
• 民事再生手続や会社更生手続は、事業の再建をめざす手続であるのに対して、当初から清算をめざす手続として、「破産手続」や「特別清算手続」があります。これらの手続は、最終的に必ず会社を清算しますが、例外的に、破産手続の中でスポンサーに事業譲渡を行うことにより、事業をスポンサーに引き継げる場合もあります。民事再生手続や会社更生手続において、計画案について多数決による債権者の賛成が得られなかったり、計画のとおり債務を弁済することができなくなるなど、途中で頓挫してしまった場合には、手続が廃止されて、破産手続が開始されます。したがって、民事再生手続や会社更生手続において、最も重要な点は資金繰りであり、通例、申立ての前から、再建に一定の目途がつくまでは、「日繰り表」(日次の資金繰り表)を丹念に精査しながら手続を進めます。

Q1.~Q3.担当 粟田口太郎弁護士
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個人情報・GDPR

Q1. 【GDPR】
職場で新型コロナウィルス感染症の感染者が発生しました。
GDPRでは、雇用者側から、同じ職場の他の従業員に、感染者発生の事実を告知することは許容されますか?
A. GDPRでは本来、職場の従業員の個人データは手厚く保護されており、特定の従業員の個人データ、しかもセンシティブな罹患した病気に関する個人データを、雇用者側が他の従業員に伝えることは厳しく制約されるところです。しかし、新型コロナウィルス感染症に関しては、感染者が発生した事実すら伝えないでおけば、他の従業員の健康にも重大な影響が生じかねないことから、感染者の氏名は秘匿した上で、必要最小限の情報を、他の従業員に伝えることは、GDPRにおいても許容されると考えられています。
Q2. 【GDPR】
新型コロナウィルスの感染リスクを避けるため、従業員から健康状態について報告させたいのですが、GDPRでは、許容されますか?
A. GDPRでは、個人データの取得は最小限にするべきという大原則があります。この原則は、新型コロナウィルス感染症の場面においても、変わらず適用されます。また、従業員は、雇用者側との関係で弱者として位置づけられていることから、その情報の取扱には慎重さが求められています。このため、従業員から新型コロナウィルス感染症に関連して、健康状態について質問し、情報を収集することは避けるべきとする加盟国も見られます。情報収集を許容している加盟国でも、情報収集を最小限に抑制することが求められます。英国のデータ保護当局であるICOでは、特定の国や地域を直近で訪問していないか、新型コロナウィルス感染症の感染の徴候がないか、についての情報収集は、最小限の枠内であると整理しています。
Q3. 【GDPR】
新型コロナウィルス感染症の感染リスクを避けるため、リモートワークを開始することを予定していますが、GDPRでも許容されるのでしょうか?
A. リモートワークにおいては、従業員が自宅のWi-Fiネットワークから、私物の端末(PCやタブレット、スマートフォン)を用いて業務する場面が想定されます。このような場面に関して、データ保護当局からは、私物の端末及び自宅のWi-Fiネットワークの利用自体を禁じるわけではないものの、会社のネットワークから会社支給の端末を用いて業務する場合と同種のセキュリティを備えるよう求められています。リモートワークの開始に際しては、慎重な検討が必要です。
Q4. 【GDPR】
欧州の各国のデータ保護当局は、新型コロナウィルス感染症のリスクに関して、どのような姿勢を示しているのでしょうか?
A. 新型コロナウィルス感染症のリスクへの当局の対応については、必要不可欠な情報のみの収集にとどめるべきである、という姿勢は各国で一致しているのですが、たとえば、従業員に質問し、健康情報を収集することについても、本来は統一されていてしかるべき所ですが、現実には、EU加盟各国間でも、ばらつきが生じてしまっています。日々情勢が変わっておりますので、当局対応に関しては、当局のウェブサイトにて最新情報を別途ご確認ください。
Q5. 【GDPR】
欧州の各国のデータ保護と当局を統轄する組織であるEDPBから、新型コロナウィルス感染症の環境におけるデータ処理のあり方についての文書が公表されたとのことですが、どのような方針が示されたのでしょうか?
A. EDPBの公表文書のポイントは
  • ①データ処理の合法性の根拠
  • ②データ処理の原則の維持
  • ③モバイル端末位置データの活用
  • ④従業員データの保護
の4つです。

①については、雇用者が、職場の健康維持および安全管理義務を果たすために必要な個人データの処理は、データ主体の同意なしに遂行できる、とされています。
②データ処理原則については、データの利用目的及び保存期間を含め透明性の維持を求めています。セキュリティに関しては、事態の緊急性に鑑みた適切な措置の履行を求めるとともに、なぜそれらの措置を採用するに至ったのか決定のプロセスを文書に残しておくことを求めています。
③は、各国の保健当局が、モバイル端末の位置情報を活用して、特定地域に所在するモバイル端末ユーザに、新型コロナウィルス感染症のリスク情報を送信する際の、情報処理のあり方について述べています。
④では、従業員及び来訪者からの健康情報の収集に関して、データ処理原則の中でも、とりわけ比例原則及び最小限原則の重要性を指摘しています。また、感染者が職場で発生した場合でも、他の従業員に当該従業員の氏名の開示は許容されないことも述べられています。
Q6. 【個人情報】
従業員本人が新型コロナウイルス感染症に感染した事実や検査結果、健康状態等の情報を取得することに個人情報保護法上の問題はありますか?
A. 個人が新型コロナウイルス感染症に感染した事実や検査結果、健康状態等(以下「感染事実等」といいます。)の情報は、個人情報のうち、特に慎重な取り扱いが必要となる「要配慮個人情報」に該当します(個人情報保護法第2条3項、個人情報保護法施行令第2条2号3号、個人情報委員会Q&A1-25)。したがって、原則として、あらかじめ本人の同意を得て取得することが必要です(個人情報保護法第17条2項)。

本人から感染事実等の情報を直接取得できる場合は、本人が当該情報を雇用主に直接提供したことをもって、取得について、本人の同意があったものと考えられます(個人情報保護委員会ガイドライン(通則編)3-2-2※2)。

本人から新型コロナウイルス感染症の感染の事実や検査結果等の情報を直接取得できない場合であっても、例外的に
  • ①人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第17条2項2号)
  • ②公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第17条2項3号)
は、あらかじめ本人の同意を得ることなく、感染事実等の情報を取得できる余地があります。

例えば、本人が入院し、本人から同意をとることが困難である場合に、家族から聴取することが考えられます。

なお、労働者の健康情報の取扱いについての「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(以下「留意事項」といいます(平成29年5月29日個情第749号・基発0529第3号))は、感染性の低い感染症の情報は原則として労働者等から取得すべきでないとしています(留意事項・第3の8(3))。しかし、新型コロナウイルス感染症は感染性が極めて高いことは明らかですのでこの点からの取得は制限されないものと考えられます。
Q7. 【個人情報】
従業員の家族の感染事実等の情報を取得することに個人情報保護法上の問題はありますか?
A. 従業員の家族の感染事実等の情報は、従業員の家族の「要配慮個人情報」に該当します。したがって、原則としてあらかじめ従業員の家族本人の同意を取得することが必要です。

ただ、実際には、従業員が従業員の家族の感染事実等の情報を雇用主に提供するという取得の仕方になることが予想されますが、このような場合には、提供元である従業員が従業員の家族から同意を得る等適法に取得したことが前提となるため、雇用主が取得に先立ち、従業員の家族本人から同意を得る必要はありません(個人情報保護委員会ガイドライン(通則編)3-2-2※2)。
Q8. 【個人情報】
新型コロナウイルス感染症の感染者が発生したとの情報を同じ職場の他の従業員に知らせることには個人情報保護法上の問題はありますか?
A. 個人情報保護法は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならないとしています(個人情報保護法第16条1項)。例外として、
  • ①法令に基づく場合(個人情報保護法第16条3項1号)
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第16条3項2号)
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第16条3項3号)
等は、本人の同意を得なくとも、目的外の利用をすることができます。

まず、各職場の就業規則や個人情報取扱規程で公表されている利用目的の達成に必要であるかを検討することになりますが、「事業活動のため」等の利用目的が記載されていた場合には、新型コロナウイルス感染症の感染を防止し従業員の健康を維持することは目的の達成に必要と考えられます。

次に、疑義がある場合には本人の同意を得るか、上記①②③の例外を検討することになります。感染事実等の情報の取得の場合と同様に、②③を根拠に本人の同意なく目的外の取扱いを行うことができると考えられます。

ただし、従業員の病気や検査結果を、本人の同意なく職場の関係者に知らせたことは、同一法人内であるため、個人情報保護法の第三者提供にはあたらないが、本人の同意がない目的外利用にはあたるとし、その上で本人の同意がない目的外利用は従業員のプライバシー侵害の不法行為に該当するとした裁判例があります(福岡高判平成27年1月29日判時2251号57頁)。

これを踏まえて考えると、同じ職場の他の従業員に知らせるのは「職場に感染者が発生した」という事実に限り、個人を特定できない形にすることが適切と考えられます。
Q9. 【個人情報】
職場で新型コロナウイルス感染症の感染者が発生した情報を取引先やビル管理者等に提供することには個人情報保護法上の問題はありますか?
A. 個人情報保護法上、個人データ(特定の個人情報を検索可能にした個人情報データベース等に入力した個人情報(個人情報保護法第2条5項))を第三者に提供することは、原則としてあらかじめ本人の同意を得ることが必要となります(個人情報保護法第23条1項本文)。

例外として、
  • ①法令に基づく場合(個人情報保護法第23条1項1号)
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第23条1項2号)
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき(個人情報保護法第23条1項3号)
等は、あらかじめ本人の同意を得なくても、個人データを第三者に提供することができます。

したがって、本人の同意を得ることを原則とし、入院中など本人の同意を得ることが困難な場合は②③を根拠に提供することが考えられます。

ただし、「個人データ」に該当しないと考えられる場合も、「公表している利用目的の達成のために必要な範囲内か」を慎重に検討する必要があります。

したがって、多くの場合、「職場に感染者が発生した」という事実に限り、個人を特定できない形で提供することが適切と考えられます。
Q10. 【個人情報】
職場で新型コロナウイルス感染症の感染者が発生した情報を、厚生労働省や保健所等に提供することには個人情報保護法上の問題はありますか?
A. 厚生労働省や保健所等も、「第三者」に該当するため、原則として本人の同意が必要なのですが、例外的に
  • ①法令に基づく場合
  • ②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき
  • ③公衆衛生の向上等のために特に必要がある場合で本人の同意を得ることが困難であるとき
には、本人の同意を得なくても、個人データを提供することが許容されます。

したがって、原則として、本人の同意を得ることを原則とし、本人の同意を得ることが出来ない場合でも①②③の例外に該当すると考えられる場合には、提供することができます。①はたとえば、感染症法第15条に基づく質問・調査が考えられます。

ただし、Q7やQ8と同様に公表している利用目的の達成に必要かを考慮する必要がありますので、提供を求める目的や範囲については確認することが適切と考えられます。

<ご参考|外部リンク>

Q1.~Q5.担当 中崎尚弁護士
Q6.~Q10.担当 中崎尚弁護士井上乾介弁護士
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商取引関係

Q1. 新型コロナウィルス感染症の影響により、顧客への契約上の非金銭債務を履行できませんでした。 その結果、顧客から損害賠償の請求を受けております。
この場合、「不可抗力」を理由として、損害賠償責任を免れることができますか?
A.  契約上、「債務の不履行の場合、その原因の如何にかかわらず損害賠償責任を負う」という定めがある場合、「不可抗力」を理由として、損害賠償責任を免れることができる可能性は低いと思われます。

一方、契約上明確な定めがない場合、一般的に「不可抗力」は免責事由と解されており、その旨を認めた裁判例もあります。そして、「不可抗力」に該当するかは、債務不履行の原因となった事由が「外部から生じた原因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止できない」ものか否かが考慮されます。 また、学説においても、債務不履行責任の文脈において、債務不履行の原因となった事由が、
  • ①債務者の統制外の障害であること
  • ②契約締結時に考慮に入れることができなかった障害であること
  • ③回避困難かつ克服困難な障害であること
が考慮要素になるという考え方が示されております。

新型コロナウィルス感染症を原因とする債務不履行が、「不可抗力」によると認定されるか否かは、個々のケースによる個別判断によらざるを得ませんが、新型コロナウィルス感染症の影響により債務を履行できなかった場合に、この問題が「不可抗力」に該当し、債務不履行責任を負わない場合もあり得ると考えられます。
なお、債務不履行責任の有無が争われるケースでは、免責されるためには「不可抗力」への該当性というよりも、債務不履行責任発生の要件のひとつである帰責事由がないと言えるか否かという文脈で問題となる点、留意が必要です。
Q2. 新型コロナウィルス感染症の影響により、契約上の非金銭債務を履行できませんでした。 顧客は契約の解除を求めています。
顧客の契約解除は認められるのでしょうか?
A.  契約上「顧客は債務の履行を受けることができなかったときは、その原因にかかわらず契約を解約できる」等の規定がある場合は、不可抗力により債務を履行することができなかったことを主張しても、顧客は契約を解約できます。

一方、契約上明確な文言がない場合ですが、民法上の一般論として、債務不履行に基づく解除権の行使については、債務者の帰責事由がなければ認められません。したがって、個々のケースごとの個別判断にはなりますが、上述Q1で述べた基準に沿って新型コロナウィルス感染症の影響は「不可抗力」(その結果、自らに帰責事由はない)と主張することで顧客による契約の解除が認められない可能性があります。
Q3. 新型コロナウィルス感染症の影響により、契約上の非金銭債務を履行できませんでした。
顧客は新型コロナウィルス感染症の影響があったにせよ、契約上の義務の履行を受けていない以上、代金を支払う必要はないと主張しています。
顧客に対して代金の支払いを求めることはできないでしょうか?
A.  契約上「顧客は債務の履行を受けることができなかったときは、その原因にかかわらず顧客は代金支払義務を免れる」旨の規定がある場合は、「不可抗力」により債務を履行することができなかったことを主張しても、顧客に代金支払いを求めることはできない可能性が高いと考えられます。

一方、契約上明確な文言がない場合ですが、民法上は、代金支払いを顧客に求めることができないのが原則です(民法536条1項)。ただし、非金銭債務を履行できなかったことにつき、債権者に帰責事由がある場合、例えば、顧客が本来履行を受領すべき時期に受領せず、その後、新型コロナウィルス感染症の影響により履行ができなくなったような場合には、顧客に対して代金支払いを引き続き求めることができます(同条2項)。

もっとも、履行期を徒過したものの、引き続き履行が可能である場合には、危険負担の問題ではないため、債務者は、自らの債務の履行をするまでは、代金の支払いを求めることはできません(同時履行の抗弁権、民法533条)。他方、新型コロナウィルス感染症の影響により、もはや履行が不可能な状態になってしまった場合には、上記のとおり、危険負担の問題となり、顧客側の帰責事由の有無に応じて、代金の支払いを請求することができる場合があります。ただし、その場合は、本来債務を履行していれば発生していた費用等、債務を履行しなかったことによって得た利益を顧客に償還しなければいけません(民法536条2項第2文)。

Q1.~Q3.担当 齋藤宏一弁護士古波藏惇弁護士
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独禁法・下請法関係

Q1. 新型コロナウイルス感染症の拡大防止や、それに伴う需要減少により、個人事業主・フリーランス(以下「取引先」)との契約を変更したいのですが、可能でしょうか?
A.  取引先と十分に協議をした上で、取引先の同意を得た場合には、契約の変更が可能と考えられます。その場合、報酬額や支払期日等の新たな取引条件については、書面等により明確化しておく必要がありますのでご留意ください。

なお、この取引変更により、取引先に新たに発生した費用等については、独占禁止法、下請法、下請振興法の趣旨に鑑み、取引先に負担させないことが望ましいと考えられます。例えば、追加の費用が発生した場合には、取引先の負担とせずに報酬額に上乗せをすること、既存の契約を解除する場合には、取引先において既発生の費用について、取引先に支払うことが望ましい対応と考えられます。

*経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」参照
Q2. 取引先から、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、納期延長等の求めがあった場合、どのように対応すべきでしょうか?
A.  個別の取引条件にもよりますが、取引先からの今般の新型コロナウイルス感染症の影響を理由とした納期延長等の求めに対しては、納期の不遵守による契約解除や債務不履行に基づく損害賠償請求等を行うことなく、十分に協議した上で、できる限り柔軟に対応することが望ましいと考えられます。

*経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」参照
Q3. 新型コロナウイルス感染症の拡大により、マスクなどの供給不足に陥った商品が飛ぶように売れるため、売れ行きの良くない商品とセットにして販売したいと考えていますが、可能でしょうか?
A.  商品の供給が一時的に不足しており、当該商品に代わる商品が存在しない場合に、関連性のない製品とセット販売を行うことは、独占禁止法が禁止する不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)(独占禁止法第2条第9項第6号等)に該当する可能性が高いと考えられます。そのため、供給不足に陥っている商品と他の製品とのセット販売は行わないようにしてください。

*公正取引委員会(令和2年2月27日)「新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に伴うマスク等の抱き合わせ販売に係る要請について」参照
Q4. 新型コロナウイルス感染症の拡大による在宅勤務の推奨や採用人数の縮小等により人手が足りない状況となっています。その結果、店舗の陳列作業等が回らなくなってしまったため、納入業者に協力を要請したいと考えています。
また、多くの消費者からの要望があったため、店舗販売以外にも宅配事業を始めようと考えているのですが、人手が足りないため、一部の商品については納入業者から直接消費者へ商品を届けてもらうように要請したいと考えています。
このような要請をすることは、可能でしょうか?
A.  小売業者と納入業者の間の買取取引においては、納入業者は商品の引渡し義務を負うだけで、店舗の陳列作業等は本来的には買主である小売業者が行うべき役務です。そのため、店舗の陳列作業や宅配業務について、小売業者の従業員等に協力させること(従業員派遣)は、原則として納入業者にとっての不利益行為に当たります。そして、小売業者が納入業者に対して優越的な地位にある場合、当該不利益行為は独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号ロ)に該当する可能性が高いです。

ただし
  • (1)従業員等の協力(従業員派遣)の条件についてあらかじめ相手方と合意し、かつ、当該従業員の協力のために通常必要な費用を小売業者(買主)が負担する場合、又は
  • (2)従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって、納入業者の負担が派遣を通じて納入業者が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり、納入業者の同意の上で行われる場合
には、例外的に不利益行為には当たらなくなります。

現状の新型コロナウイルス感染症の影響に鑑みると、小売業者の営業が円滑に行われることや、外出が困難となっている中で小売業者が生活物資を直接消費者へ配達することは市民生活を支援するために有益と考えられます。一方で、営業時間中の納入作業や宅配作業は不特定多数の客と接触することが想定されるため、このようなリスクを納入業者に不当に押し付けることがないように、実施方法・条件について小売業者と納入業者との間で十分に協議を行い、かつ、上記 (1)か(2)の要件を満たす場合には、納入業者に、店舗の陳列作業や宅配業務について協力を要請することも可能と考えられます。

*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問3及び問7」参照
Q5. 新型コロナウイルス感染症の影響により、親事業者の販売計画等が狂い、倉庫等に在庫があふれ、下請事業者からの納品を受領することができない状況となっています。そのため、当初定めた納期での受領を拒否したい(納期を延期したい)と考えていますが、可能でしょうか?
また、納期延長により倉庫代等の追加費用が下請事業者に発生することになりますが、当該費用について下請事業者に負担をお願いしても問題ないでしょうか?
A.  下請事業者に責任がある場合を除き、親事業者が受領拒否をすることは、下請法上問題となります(下請法第4条第1項第1号)。そのため、親事業者は、他の営業所や倉庫等の代替的な場所での受領の可能性も含め可能な限り当初定めた納期で受領する手段を講ずる必要があります。しかしながら、例えば、都道府県の要請を受けて営業を自粛しているため、客観的にみて当初定めた納期に受領することが不可能であると認められる場合には、両者間で十分協議の上、相当期間に限り納期を延ばしても、公正取引委員会等が下請法違反に基づく措置等を取る可能性は低いと考えられます。親事業者は、このような特別な事情や経緯について、事後的にも説明できるように記録を作成しておくことが求められます。

また、この場合下請事業者に追加で生じた保管費用等の追加費用については、原則として、親事業者が負担する必要があります。下請事業者に対し、親事業者が支払うべき費用を負担させることは、不当な経済上の利益提供要請として下請法上問題となりますので注意が必要です(下請法第4条第2項第3号)

*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問4」参照
Q6. 下請事業者Xから部品Aを下請事業者Yから部品Bの供給を受けて商品Cを製造しているが、新型コロナウイルスの影響で部品Aの供給がストップしてしまった。
部品Bだけ納入を受けても仕方ないので、それを理由として、下請事業者Yに発注していた部品Bをキャンセルし、支払いを回避したいが可能でしょうか?
A.  個別の事案にもよりますが、下請事業者に責任がある場合を除き、親事業者の都合で一方的に発注をキャンセルし、商品の受領を拒否して支払いを拒む行為は、受領拒否として、下請法上問題となります(下請法第4条第1項第1号)。したがって、親事業者としては、部品Bだけ受領しても商品Cを製造できないということを理由に、発注をキャンセルしたり、支払いを回避することはできません。

*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問9」参照
Q7. 新型コロナウイルス感染症の影響により下請事業者の生産・調達コストが大幅に上昇したことを理由に、下請事業者から単価引上げのお願い受けました。
親事業者としては、契約で決めていたのだから、従来の単価を据え置きたいと考えていますが、可能でしょうか?
A.  生産・調達コストが大幅に上昇するなどの新型コロナウイルス感染症の影響による単価の引上げについては、親事業者と下請事業者との間で十分協議を行って決定することが望まれます。

具体的な事実を踏まえて判断することとなりますが、例えば、人手不足による人件費の上昇、供給不足による部品の価格高騰など、新型コロナウイルス感染症の影響により下請事業者のコストが通常の発注に比べて大幅に増加するような発注にもかかわらず、下請事業者と十分に協議することなく、通常の発注をした場合の単価と同一の単価に一方的に据え置くことは、買いたたきとして下請法上問題となるおそれがあります(下請法第4条第1項第5号)

*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問11」参照

Q1.~Q7.担当 臼杵善治弁護士石田健弁護士
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オリンピック・その他イベント等

Q1. 東京オリンピックの延期による法的影響としてどのようなことが考えられますか?
A. 2020年3月24日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(「東京2020組織委員会」)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由に、国際オリンピック委員会(「IOC」)との協議を踏まえ、第 32 回オリンピック競技大会及び東京 2020 パラリンピック競技大会(「東京オリンピック」)の延期を発表しました。

東京オリンピックの延期の主たる法的影響としては、関連当事者が締結している契約の取扱い・協議・調整が挙げられます。

まず、東京オリンピックは、これに直接又は間接に関与するIOC、各国国内オリンピック委員会(NOC。日本オリンピック委員会を含みます。)、東京2020組織委員会、国内競技連盟(NF)、各国政府機関、東京都、スポンサー、サプライヤー・ベンダー、広告代理店、メディア(放送局等)、保険会社、旅行関連会社(代理店、ホテル、航空会社等)、アスリート、観客その他の国内外の多数の当事者が、開催都市契約、スポンサー契約、ライセンス契約、放映権契約、チケット契約・規約、広告契約、保険契約、旅行契約、売買・製造委託・サービス契約その他の多様な契約(「オリンピック関連契約」)を締結し、それらを履行することによって実現する一大イベントです。
オリンピック関連契約は、一般的な契約から、オリンピックの特殊性を踏まえた契約まで多岐にわたります。
例えば、開催都市契約2020東京2020チケット購入・利用規約はオリンピックに固有の契約ですが、その内容が公表されています。

オリンピックは、歴史上、戦争を理由として中止又は延期となった5大会を除き、1948年以降中止又は延期となっていないことにも鑑み、各オリンピック関連契約は、必ずしも東京オリンピックの延期を具体的に想定して規定されていないことが多いと考えられます。

そのため、各契約を延期後の東京オリンピックのために存続させるとしても、延期その他の理由で終了させるとしても、契約及び適用のある法令の解釈を踏まえた当事者間の協議による調整が欠かせません。

まず、契約を存続させる場合、双方当事者の履行すべき義務の変更の要否・内容、既発生分・延期に伴う追加分の費用の負担・支払時期、再延期のリスク分担等、必要に応じて、多岐にわたる事項が協議対象になると考えられます。

また、契約を終了する場合、不可抗力(新型コロナウイルスの感染拡大及びそれに伴う東京オリンピックの延期)による債務不履行責任の免責・契約解除・損害賠償請求の可否、既発生分・将来分の費用負担、保険による回収の可否等、状況に応じて、多岐にわたる事項が協議対象になると考えられます。

一方、既存の契約当事者以外でも、延期に伴い、新たな事業者との契約締結、既に東京オリンピック後に予定されていた事項(選手村跡地の活用、競技場等の施設におけるイベント等)の関係者との調整等が必要になると考えられます。

そうした協議・調整の過程で、契約の一方的解除・損害賠償請求、関連事業者の変更、関連事業者の倒産、選手選考等が紛争の火種となるおそれがあり、東京オリンピックの延期という不測の事態において紛争化をいかに抑止していくかという視点も重要となります。

以上の通り、延期後の東京オリンピックを円滑に実現するためには、関係当事者が契約その他に関する諸問題に取り組み、速やかに延期後に対応した契約その他の手当てを行うことが望まれます。 自らが当事者・関係者である取引が東京オリンピック延期の影響を受け得る場合、まずは、当該取引に関する契約書等を確認し、東京オリンピック延期によってどのような法的効果が生じ得るか、対応が必要となるかを検討することが出発点となります。

Q1.担当 松本拓弁護士
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