日本企業の法×経済安全保障を考える2026 ―ジレンマと戦略的対応―
更新日
2026年3月31日

当事務所は、2025年3月より、「AMT通商・経済安全保障シリーズセミナー ~世界情勢とビジネス法」を開催しており、2026年3月回は、本シリーズの締めくくりとして、ゲスト講師に東京大学公共政策大学院教授、国際文化会館地経学研究所所長の鈴木一人先生をお招きして特別セミナーを開催しました。本特別セミナーでは、国際情勢の変容を踏まえ、経済安全保障の観点から日本企業が直面するリスクと機会を整理するとともに、今後求められる実務対応について多角的な議論が交わされました。

1.基調講演「経済が武器化する時代の戦略思考~地経学によるアプローチ」

はじめに、鈴木一人先生による「経済が武器化する時代の戦略思考~地経学によるアプローチ」と題した基調講演が行われました。
講演では、自由貿易を前提として相互依存を深めてきた従来の国際経済秩序が揺らいでおり、現在では、経済的相互依存が経済的威圧の基礎となっていると指摘されました。経済安全保障はこうした経済的威圧への対応を主要な要素としており、経済安全保障対応においては、国家と企業が共に主体となる必要があると示されました。加えて、各国の規制の影響を真っ先に受けることとなる企業にとっては、リスク回避・軽減のための仕組みを整備することが重要であると強調されました。日本としては、上流工程の素材・部材・製造装置等の強みを活かしつつ、国際的なルール形成に主体的に関与していく視点も重要であると述べられました。

2.パネル討議「現代企業に求められる経済安全保障問題へのアプローチ」

パネル討議参加者

これを受けたパネル討議では、従前は経済活動と安全保障は切り分けて考えられてきたものの現代においてはその区別は難しくなっているため、企業の経営判断では経済的な合理性のみならず、地経学リスクや規制リスクなど多様な要素を考慮する必要があることが指摘されました。従来の貿易摩擦とは異なり、近年みられる経済的威圧は、正当性を欠く形で行われる点が決定的な特徴であり、こうした経済を武器とする行為は今後も続くとの見方が示されました。さらに、これは一時的な現象ではなく、国家と市場の関係そのものが構造的に変化する中で理解すべきであり、企業は、従来の前提の延長線上では対応しきれないとの認識が共有されました。

企業実務の観点からは、経済安全保障はもはやコンプライアンスだけで完結するテーマではなく、経営判断そのものに組み込むべき課題であると繰り返し指摘されました。輸出管理、投資規制、制裁、サプライチェーン政策など、政府の政策が企業活動に直接影響する場面が増える中で、企業は単なる規制の受け手にとどまらず、自ら情報を提供し、官民対話を通じて政策形成にも関与していく必要があります。特に、サプライチェーン情報や技術情報は政府にとっても不可欠であり、官民の協調が経済安全保障対応の前提であるとの見方が示されました。

また、実務対応として重要なのは、リスクをゼロにすることではなく、変化に耐え、必要に応じて素早く組み替えられる体制を持つことだと強調されました。そのためには、調達・生産・販売の各段階で依存関係を可視化し、特定地域や特定供給者への集中を把握すること、マルチソーシングや地域分散を進めること、必要な在庫や代替設計・代替生産能力を確保することが重要です。経済合理性のみを追求した最適化は平時には効率的でも、有事には脆弱性に転じ得るため、コストとリスクのバランスをどう取るかが経営の核心になります。

さらに、企業に求められる「インテリジェンス」についても、単なる情報収集ではなく、自社の文脈で収集した情報をどのように解釈するかがポイントだと指摘されました。具体的には、自社の事業・供給網・投資計画との関係で情報を解釈し、考えられる複数のシナリオに落とし込むことが重要です。地政学的事象が自社にどう波及するかを平時から検討し、社内外の専門家も活用しながら判断の質を高めることも不可欠です。あわせて、各企業は、経済安全保障上どのような考え方・立場を採るかという点につき、場当たり的ではない一貫した「ナラティブ」を構築する必要があり、たとえば海外投資や事業展開の場面では、統一的なシナリオをもって各国当局との対話に臨むことが重要だと指摘されました。

3.企業には「守り」と「攻め」の双方が求められている

本セミナーを通じて確認されたのは、経済安全保障は一部の専門部署だけで扱う問題ではなく、経営、法務、調達、事業、渉外をはじめとする全社横断的な課題であるということです。企業には、リスクへの備える「守り」と、自社の不可欠性やルール形成への関与を通じて競争力を高める「攻め」の双方が求められています。当事務所も、複雑化する国際環境の下で、企業の皆様が的確な判断と実効的な対応を行えるよう引き続き多面的な知見を提供してまいります。

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