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「働き方改革」関連法について
特集 2021年2月

「働き方改革」関連法について

2021年2月
更新日 2021年2月18日
業務分野 人事・労務

2018年7月6日に働き方改革関連法が制定・公布され、2019年4月1日以降、段階的に施行されております。


働き方改革関連法は、Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進のための雇用対策法の改正、Ⅱ 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等のための労働基準法、安全衛生法及び労働時間等設定改善法の改正、Ⅲ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保のためのパートタイム労働法の改正(パートタイム・有期雇用労働法)、労働契約法及び労働者派遣法の改正を含みます。本稿では、主に上記Ⅱに関して2019年4月1日に施行された内容、及び上記Ⅲに関して2020年4月1日に施行された内容について、使用者において対応が必要となる事項を中心にご紹介します。

1.労働基準法

(1)時間外労働の上限規制(中小企業については2020年4月1日以降)

労働基準法の下では、法定労働時間を1日8時間、週40時間以内とし(労働基準法32条)、週1日又は4週4日の法定休日を確保しなければなりませんが(労働基準法35条)、時間外労働・休日労働に関する協定(以下「36協定」といいます。)が締結され労働基準監督署への届出があった場合には、同協定に基づいて法定労働時間外又は法定休日労働をさせることができることとなっています。従前、平成10年12月28日労働省告示154号において、36協定で定めることができる時間外労働の限度時間の基準が定められていたものの、この告示には強制力はないものと考えられてきましたが、今回の労働基準法改正により、以下のとおり、時間外労働に法律上の上限規制が課せられました。


原則)時間外労働 45時間/月、360時間/年(労働基準法36条3、4項)
例外)36協定で定めることが可能な上限時間:単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)、720時間/年(労働基準法36条6項))の範囲内
1ヶ月の時間外労働時間の限度時間を超えることができる月数:6ヶ月以内(労働基準法36条1項、5項)

上限時間の規制に違反した場合には6ヶ月の懲役又は30万円以下の罰金の対象となります(労労働基準法119条1号)。


適用開始日:
・大企業:2019年4月1日以降の期間のみを定める新しい36協定の適用開始から
・中小企業:2020年4月1日以降の期間のみを定める新しい36協定の適用開始から


<ご参考>
「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

(2)年次有給休暇の時季指定義務

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、毎年5日、時季を指定して与えなければなりません(労働基準法39条7項)(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はありません(同条8項)。)。年次有給休暇の時季指定義務については、「休暇」に関する事項に該当しますので、就業規則の年次有給休暇の規定において明記すべきと考えられます(労働基準法89条1号)。年次有給休暇の時季指定義務に違反した場合には30万円以下の罰金の対象となります(労働基準法120条1号)。


<ご参考>
「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

(3)フレックスタイム制の清算期間の延長

フレックスタイム制の「清算期間」の上限が1か月から3か月に延長されました(労働基準法32条の3、32条の3の2)。

(4)高度プロフェッショナル制度

職務の範囲が明確で一定の年収(1,075万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識等を必要とし、かつ従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務(具体的には、金融商品開発、金融ディーラー、アナリスト、コンサルタント、研究開発の5業種)に従事する場合、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じることや本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用を除外する制度です(労働基準法41条の2)。また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について1月あたり100時間)を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければなりません(労働安全衛生法66条の8の4第1項。これに違反した場合には50万円以下の罰金の対象となります(労働安全衛生法120条1号))。

(5)労働条件の明示の方法

労働基準施行規則5条4項が改正され、労働条件明示の方法として、書面交付の方法のほか、労働者が希望した場合には、①ファクシミリの送信、②印刷可能な電子メール等の送信による明示も認められました。


2.安全衛生法

・労働時間の状況をタイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法(3年間保存)により把握しなければなりません(法66条の8の3。安全衛生規則52条の7の3)。
・産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場においては、事業者は、事業者は、産業医に対し産業保健業務を適切に行うために必要な情報を提供しなければなりません(法13条4項、安全衛生規則14条の2)。また、衛生委員会に対し、産業医が行った労働者の健康管理等に関する勧告の内容等を報告しなければなりません(法13条5、6項、安全衛生規則14条の3)。


3.パート有期労働法(中小企業については2021年4月1日適用開始)・労働者派遣法

(1)不合理な待遇差の禁止

a.パートタイム・有期雇用労働者

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期労働法」といいます。)が改正され、同一企業内での不合理な待遇差の禁止(パート有期労働法8条、均衡待遇規定)及び差別的取扱いの禁止(同法9条、均等待遇規定)が整備され、当該規定の解釈明確化のため、ガイドライン(指針)が策定されました(同法15条)。
不合理な待遇差の禁止は、①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情の違いを考慮して不合理な待遇差を禁止するものです。
差別的取扱いの禁止は、①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、待遇について同じ取扱いをすることとする(差別的取扱いを禁止する)もので、改正前はパートタイム労働者が対象とされていましたが、改正により有期雇用労働者も対象とされました。 ガイドラインには、基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練などの待遇について、それぞれどのような対応を要するか、具体例を交えた記載がされています。


b.派遣労働者

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」といいます。)30条の3及び30条の4により、派遣元事業主に、「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかによる待遇を確保することが義務付けられました。「派遣先均等・均衡方式」(派遣法30条の3)とは、派遣先に直接雇用されている労働者との間で、上記の均衡待遇・均等待遇をするもので、パートタイム・有期雇用労働法の同一労働同一賃金ガイドラインに基づく対応が必要です。「労使協定方式」(同法30条の4)とは、過半数労働組合(組合がない場合は過半数代表者)と派遣元事業主との間で一定の事項を定めた労使協定を締結するものです。
いずれの方式で待遇を決定する場合でも、派遣先は、派遣元事業主に対し、待遇に関する情報を提供しなければならず(同法26条7項)、その情報に変更があった場合も変更について情報を提供しなければなりません(同法26条10項)。派遣元事業主は、当該情報提供がなければ労働者派遣契約を締結してはなりません(同法26条9項)。
さらに、改正前労働者派遣法では派遣先の配慮義務として定められていた派遣労働者に対する①教育訓練の実施及び②直接雇用されている労働者が利用する福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室等)の利用の機会付与が、派遣先の義務とされました(同法40条2項及び3項)。


(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

a.パートタイム・有期雇用労働者

これまでパートタイム労働者について定められていた、待遇内容及び待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務が、有期雇用労働者についても整備されました(パート有期労働法14条1項及び2項)。
また、非正規労働者は、正社員(無期雇用フルタイム労働者)との待遇差の内容や理由について、事業主に対して説明を求めることができ、事業主には求めがあった場合の説明義務が生じることになりました(同法14条2項)。さらに、当該説明を求めた労働者に対する不利益取扱いが禁止されました(同法14条3項)。


b.派遣労働者

派遣労働者も、待遇差の内容や理由について、派遣元事業主に対して説明を求めることができ、派遣元事業主には求めがあった場合の説明義務が生じることになり(派遣法31条の2第4項)、説明を求めた労働者に対する不利益取扱いが禁止されました(同法31条の2第5項)。
また、派遣元事業主は、これまで、雇入れ時及び派遣時に、労働条件に関する事項を明示する義務を負っていたところ、さらに、不合理な待遇差を解消するために講じる措置の説明をしなければならないこととなりました(同法31条の2第2項及び第3項)。


(3)行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

有期雇用労働者についても、行政から事業主に対する報告徴収・助言・指導等ができることが定められました(パート有期労働法18条)
また、均衡待遇や待遇差の内容・理由に関する説明についても行政ADRの対象とされ、有期雇用労働者及び派遣労働者も行政ADRを利用できることになりました(パート有期労働法25条及び26条、派遣法47条の8及び9)。


<ご参考>
「同一労働同一賃金特集ページ」

「同一賃金同一労働ガイドライン」




当事務所は、人事・労務分野において豊富な知識と経験を有しており、依頼者である国内外の企業がその事業を遂行する過程で直面するさまざまな労働問題について、個々の企業の状況に合わせた専門的かつ実務に即したアドバイスを提供するとともに、訴訟、仮処分、労働審判、あっせん、不当労働行為救済手続などの紛争解決手続におけるサポートを提供しています。企業が直面する労働問題の内容は、業種、規模、事業環境などによりさまざまですが、労働問題は年々複雑化・高度化する傾向にありますので、企業にとって経験豊富な専門家によるアドバイスをタイムリーに得ることの重要性は益々高まっています。当事務所は、人事・労務分野に精通した多数の弁護士を擁しており、企業が抱えるさまざまな労働案件について、適切なアドバイス及びサポートをタイムリーに提供できる体制を整えています。


<外部リンク>
厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(新旧対照条文)

当該分野に精通する弁護士等