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再エネ海域利用法の制定
特集 2018年12月

再エネ海域利用法の制定

2018年12月
更新日 2018年12月12日
業務分野 資源・エネルギー

執筆者赤羽 貴(パートナー弁護士) 横井 邦洋(スペシャル・カウンセル) 


1 背景

2018年11月30日に、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(「再エネ海域利用法」)が国会で可決され、日本の一般海域の利用を促進するための区域の指定や長期の海域占用に係る利用計画の認定制度等が定められました。この再エネ海域利用法に基づく一般海域利用のための新たな制度は、日本の一般海域において洋上風力発電事業を長期的かつ安定的に実施するための制度として注目を集めています。

国土の四方を海に囲まれている日本では、海域を利用した洋上風力発電等の再生可能エネルギー事業が重要であると位置付けられてきました。しかし、これまで、我が国の領海および内水の海域のうち港湾法や海岸法等で定められている区域以外の海域(「一般海域」)の利用については、長期的に占用するための統一的ルールがなく、また、海運や漁業等の他の海域利用者との調整に係る枠組みも整備されておりませんでした。

このため、再エネ海域利用法の制定により、日本の一般海域において、洋上風力発電等の海洋再生可能エネルギー事業の長期かつ安定的な実施を可能とすべく、他の海域利用者との調整の仕組みや、海域の長期占用に関する認定制度等が創設されました。

以下では、再エネ海域利用法の主要な論点のうち、今後の洋上風力発電事業の実施検討という観点から特に重要と思われる点に絞って概説いたします。

2 再エネ海域利用法のポイント

(1)海域利用のための促進区域の指定

経済産業大臣および国土交通大臣は、一般海域のうち海洋再生可能エネルギー発電事業の実施のために適切な場所を海域利用促進区域(「促進区域」)に指定することができるようになります(再エネ海域利用法8条1項)。なお、経済産業大臣および国土交通大臣は、促進区域の指定に際して、農林水産大臣、環境大臣等との協議や、関係都道府県知事および利害関係者等で協議会が構成される場合は当該協議会の意見聴取等を経ることとされています(同法8条5項、9条)。


(2)促進区域の占用に関する許可制の導入

再エネ海域利用法の施行後は、促進区域において、促進区域の占用、施設または工作物の設置ないし改築その他同法および政令に定める一定の行為をしようとする場合、国土交通大臣の許可が必要となります(同法10条1項)。占用許可の有効期間は最長30年間とされ、更新するときも同様とされています(同法10条4項)。


(3)占用計画の公募および認定

経済産業大臣および国土交通大臣は、促進区域を指定したときは、促進区域内海域において海洋再生可能エネルギー発電事業を行うべき者を公募により選定するために、基本方針に即して、公募の実施および海洋再生可能エネルギー発電設備の整備のための促進区域内海域の占用に関する指針(「公募占用指針」)を定めなければならない、とされています(同法13条1項)。経済産業大臣および国土交通大臣は、事業者から提出された公募占用計画をもとに選定事業者を選定し(同法15条)、当該選定事業者の公募占用計画を認定することが予定されています(認定公募占用計画。同法17条)。なお、認定の有効期間はあらかじめ公募占用指針において定められますが、最長30年間とされています(同法13条3項)。

このように、再エネ海域利用法のもとでは、促進区域内海域の利用および洋上風力発電事業は、公募により選定された選定事業者およびその公募占用計画に基づいて実施することが予定されています。その結果、選定事業者から認定公募占用計画に基づき促進区域内海域の占用申請があった場合、国土交通大臣は当該許可を与えなければならないとされる一方で(同法19条2項)、公募占用計画の認定がされた場合、選定事業者以外の者は当該認定の占用期間内に同じ区域で許可申請をすることができないとされています(同法19条3項)。

なお、選定事業者が有する公募占用計画の認定に基づく地位は、経済産業大臣および国土交通大臣の承認を得た場合、選定事業者の一般承継人、ならびに、選定事業者から認定公募占用計画に係る海洋再生可能エネルギー発電設備の所有権その他設備の設置および維持管理に必要な権原を取得した者に承継することができる、されています(同法20条)。

3 公募手続および事業の実施までのプロセス

新たな一般海域の利用制度に従って洋上風力発電事業の実施を目指す事業者は、今後、以下のプロセスに沿って事業を検討・実施していくことになると思われます。

  1. 【公募手続および事業(占用)実施までの手続のプロセス】
  2. 政府は、促進区域における再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用を促進するための基本方針を閣議決定により策定
  3. 経済産業大臣および国土交通大臣は、農林水産大臣、環境大臣等との協議や、協議会等の意見聴取を経た上で促進区域を指定し、公募占用指針を策定・公募
  4. 占用を希望する事業者は、公募期間中に、経済産業大臣および国土交通大臣に公募占用計画を提出
  5. 経済産業大臣および国土交通大臣は、発電事業の内容、供給価格等により最も適切な計画の提出者を選定し、当該公募占用計画を認定(認定公募占用計画)
  6. 選定事業者は、公募占用計画の内容に基づき、公募占用指針に定める申請期限までにFIT法に基づくFIT発電の事業計画の認定を申請
  7. 選定事業者は、認定公募占用計画に基づき促進区域内海域の占用等の許可を申請、国土交通大臣による占用許可(最長30年間)

4 施行日(予定)

再エネ海域利用法の施行日は、「公布の日から起算して4か月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており(同法附則1条)、2019年4月ごろまでに施行されることが見込まれています。

なお、政府は、再エネ海域利用法制定による目標・効果として、風力発電全体の導入容量を2017年度時点の約350万kWから、2030年度までに約1000万kWへ拡大することを掲げております。また、2030年度までに運転が開始される再エネ海域利用法に基づき指定される促進区域数を、5区域とすることを目指すとしています。

5 AMTによるサポート

当事務所のエネルギー・プラクティス・グループは、多くの国内外の風力発電プロジェクトにおいて様々なアドバイス・法的サポートを提供してきた実績を有しており、再エネ海域利用法の制定に先だち、2016年に改正された港湾法の公募占用計画に基づく国内洋上風力発電プロジェクト等についてもアドバイスしております。これらの知識と経験を活かし、今後も洋上風力発電を含む再生可能エネルギー事業の発展をサポートしていく方針です。



取扱業務|資源・エネルギー