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新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
特集 2010年1月

新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題

2010年1月
更新日 2021年7月6日

新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。

当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。

オリンピック・その他イベント等

A.2020年3月24日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(「東京2020組織委員会」)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由に、国際オリンピック委員会(「IOC」)との協議を踏まえ、第 32 回オリンピック競技大会及び東京 2020 パラリンピック競技大会(「東京オリンピック」)の延期を発表しました。

また、2020年4月16日、東京2020組織委員会は、2021年夏に東京オリンピックを開催するプロセスについては、コーツ IOC 委員長と森東京 2020 組織委員会会長が率いる、ジョイント・ステアリング・コミッティーによって統括されると発表しました。

東京オリンピックの延期の主たる法的影響としては、関連当事者が締結している契約の取扱い・協議・調整が挙げられます。

まず、東京オリンピックは、これに直接又は間接に関与するIOC、各国国内オリンピック委員会(NOC。日本オリンピック委員会を含みます。)、東京2020組織委員会、各国際競技連盟(IF)、国内競技連盟(NF)、各国政府機関、東京都、スポンサー、サプライヤー・ベンダー、広告代理店、メディア(放送局等)、保険会社、旅行関連会社(代理店、ホテル、航空会社等)、アスリート、観客その他の国内外の多数の当事者が、開催都市契約、スポンサー契約、ライセンス契約、放映権契約、チケット契約・規約、広告契約、保険契約、旅行契約、売買・製造委託・サービス契約その他の多様な契約(「オリンピック関連契約」)を締結し、それらを履行することによって実現する一大イベントです。

オリンピック関連契約は、一般的な契約から、オリンピックの特殊性を踏まえた契約まで多岐にわたります。 例えば、開催都市契約 2020東京 2020 チケット購入・利用規約はオリンピックに固有の契約ですが、その内容が公表されています。

オリンピックは、歴史上、戦争を理由として中止又は延期となった 5 大会を除き、1948 年以降中止又は延期となっていないことにも鑑み、各オリンピック関連契約は、必ずしも東京オリンピックの延期を具体的に想定して規定されていないことが多いと考えられます。

そのため、各契約を延期後の東京オリンピックのために存続させるとしても、延期その他の理由で終了させるとしても、契約及び適用のある法令の解釈を踏まえた当事者間の協議による調整が欠かせません。

まず、契約を存続させる場合、双方当事者の履行すべき義務の変更の要否・内容、既発生分・延期に伴う追加分の費用の負担・支払時期、再延期のリスク分担等、必要に応じて、多岐にわたる事項が協議対象になると考えられます。

また、契約を終了する場合、不可抗力(新型コロナウイルスの感染拡大及びそれに伴う東京オリンピックの延期)による債務不履行責任の免責・契約解除・損害賠償請求の可否、既発生分・将来分の費用負担、保険による回収の可否等、状況に応じて、多岐にわたる事項が協議対象になると考えられます。

一方、既存の契約当事者以外でも、延期に伴い、新たな事業者との契約締結、既に東京オリンピック後に予定されていた事項(選手村跡地の活用、競技場等の施設におけるイベント等)の関係者との調整等が必要になると考えられます。

そうした協議・調整の過程で、契約の一方的解除・損害賠償請求、関連事業者の変更、関連事業者の倒産、選手選考等が紛争の火種となるおそれがあり、東京オリンピックの延期という不測の事態において紛争化をいかに抑止していくかという視点も重要となります。

以上の通り、延期後の東京オリンピックを円滑に実現するためには、関係当事者が契約その他に関する諸問題に取り組み、速やかに延期後に対応した契約その他の手当てを行うことが望まれます。 自らが当事者・関係者である取引が東京オリンピック延期の影響を受け得る場合、まずは、当該取引に関する契約書等を確認し、東京オリンピック延期によってどのような法的効果が生じ得るか、対応が必要となるかを検討することが出発点となります。

A.2020 年 3 月 25 日、IOC 及び東京 2020 組織委員会は、延期後の東京オリンピックにおいても大会の名称は「東京2020(TOKYO2020)」の利用を継続することを発表しました。 そのため、スポンサー契約等に従って関連事業者が使用できる商標は、基本的には延期前と同じものに限定されるものと考えられます。
なお、大会名称(TOKYO2020)を含む様々な商標が東京2020組織委員会やJOCによって商標登録されていますが、延期後の大会を想起させる「TOKYO2021」の商標について、既に東京 2020 組織委員会を含む複数人から出願がされ、手当てがされつつあります。

また、オリンピックを想起させる広告等については、引き続き、商標法、不正競争防止法、著作権法等の法規制に抵触しないよう留意する必要があるほか、いわゆるアンブッシュマーケティング(便乗商法)に該当するおそれがあるため注意が必要です。

アンブッシュマーケティング(便乗商法)とは、一般的に、オリンピック・パラリンピックなどのイベントにおいて、スポンサー契約を結んでいない者が、当該イベントのロゴなどを無断で使用したり、会場内や周辺で当該イベントに便乗したりして行う宣伝活動をいいます。イベント主催者がアンブッシュマーケティングを規制する主な目的は、イベントに関する知的財産権の使用についてのスポンサー等の独占的な権利(スポンサーシップ、ライセンシング等)を保護し、ひいてはスポンサーによる協賛金等の収入によりイベントを運営するビジネスモデルを保護することにあります。

日本の法令上、アンブッシュマーケティングを直接的に定義、規制するものはありませんが、東京 2020 組織委員会は、アンブッシュマーケティングを「故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者である IOC や IPC、組織委員会の許諾なしにオリンピック・パラリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピック・パラリンピックのイメージを流用すること」と定義し、これを規制しています(東京2020組織委員会「Brand Protection Guidelines 大会ブランド保護基準 Version 5.0 February 2020」)。大会ブランド保護基準については、延期決定後も現時点では改訂はなされていませんが、延期に伴う改訂が今後行われる可能性があります。

Q1.~Q2.担当 松本拓弁護士小野愛菜弁護士
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